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   別れの時


 今日まで言いづらくて、剛に言えなかった言葉。
「あのね、明日から出張なの。1週間北海道に行くから」
 やっと言った言葉。
 剛はただ、私を見ている。
 だんだん不機嫌になっていくのが分かる。
「ごめんね、黙ってて」
 別に黙っていたかったわけじゃないの。
 ただ、言いにくかっただけ。
 剛は、きっと私の言葉に傷つくから。
 前の出張の時、剛は捨てられた子犬みたいな顔してた。
 それが、辛かった。
 剛はワガママで、意地っ張りで、強情で…だけど、誰より寂しがり屋。
 そんな剛から、私は離れていく。
 私たち二人にとっては、裏切りにも似た行為。
 けれど、これは仕事だから。
 剛が仕事でずっと家にいられないのと同じように、私も仕事でずっと家にいられない。
「愛してる、愛してる。剛と離れたくないよ」
 私は剛の背中に抱きつく。
 剛は動かない。
「でもね、仕事なの。行かなきゃならないの」
 剛は無言のまま。
 剛はどんな顔で私の話を聞いているの?
 私は剛の顔が怖くて見れない。
「毎日電話する。メールもする。仕事が終わったらすぐに帰ってくるから」
 剛が私と向き合った。
 その目には寂しさが宿っているように見える。
「ごめんね、ごめんね」
 私は謝りながら剛の胸に青を沈める。
「仕事…だもんな」
 剛がポツリと言う。
 私を抱きしめてくれる。
「剛…」
「いつも、俺、にこいう思いさせてるんだよな…」
 頭の上から降ってくる悲しそうな言葉。
はいつも我慢してくれてるのに…俺、無理だよ」
 剛の声が掠れていく。
「ここに帰ってくればがいるって、それだけが俺の支えなんだ」
「…剛?」
 剛を見上げる。
 涙が頬を伝っていっている。
「俺、1週間もなしで生きていく自信ないよ」
 不安そうな剛。
「私ちゃんと剛の側にいるよ?いつも剛のこと思ってるよ?だから、泣かないで」
 剛の涙を指でぬぐう。
…」
 剛から口づけをする。
「剛?」
「俺のこと、忘れないで…」
 言葉が、震えている。
「忘れないよ。いつも思ってるよ」
「忘れないで」
 さっきよりも長い口づけ。
「ねぇ、剛」
 私は剛に優しく微笑みかける。
「そんなに心配?」
 私がたずねると、剛は素直に頷いた。
「じゃぁ、1週間分私を愛して?剛のものだっていうシルシを私にちょうだい?絶対に私は剛を忘れたりしないから」
 剛は、まるでガラス細工か何かのように私に触れる。
 大切な物を壊さないように。
 けれど、剛の愛は果てしなくて、少しずつ力強くなっていく。
 最後には、ただ独占欲だけが剛を支配して、私をメチャメチャに壊す。
 私は剛の中でその心地良さに酔う。

 朝。
「行ってくるね」
 部屋から出ようとする私。
 剛が私の腕を掴む。
「行くなよ」
「え?」
「どこにも行くなよ!ずっと俺の側にいろよ!!」
 剛がまくし立てる。
「ちょっと、剛?」
「…ごめん」
「ううん…」
 剛の気持ちは分かる。
 いつもは私の方が感じてることだから。
、愛してる」
 軽いキス。
「私も、剛を愛してる」
 もう一度キス。
「いってらっしゃい」
 寂しそうな笑顔で言う剛。
「いってきます」
 私は部屋を出る。

 たった1週間。
 7日間離れているだけなのに。
 どうしてこんなに胸が痛むんだろう。
 剛が家に帰ったとき、私がそこにいない。
 それが、こんなに辛いなんて。
 けれど、行かなきゃならばい。
 仕事を辞めたいとは思わない。
 剛もそれは同じ。
 私たちは仕事へ出かけていくけど、必ず帰ってくるもの。
 私と剛のこの家へ。
 1週間したら帰ってくるから。
 それまで、待ってて…。



あとがき
なぜか作品数の多い剛くんです。前よりはマシかなぁ?酷くはないよね?
でも、ちょっと甘えん坊すぎですか?しかも無口だし。
タイトル悲恋っぽいけど、ベタ甘です。あはは。