友達未満
夜。もう日付が変わろうとしていた。
俺は迷っていた。
の声が聞きたい。
けれど、は俺の「彼女」じゃない。
「友達」でもない。
「アイドル」長野博のファン。
そんなことを考えてしまう。
だから、一度も電話をかけたことがない。
携帯を弄りながら悩んでいた。
「長野、もうすぐ休憩終わるぞ」
背中越しに声がした。
「あ、坂本くん」
俺は携帯を鞄の中にしまった。
「何だ?どうかしたのか?」
少し心配そうに俺を見る。
「何でもないよ。さて、スタジオに行きますか」
そう言って、いつものように笑顔を作った。
「ま、いいけど」
坂本くんは俺の様子が変だと気付きながらも、詮索してこない。
「おい、井ノ原行くぞ!」
半分眠りの世界に入りかけてる井ノ原をたたき起こしてスタジオへ向かった。
俺たちの仕事には、朝も昼も夜もない。
スケジュールは分刻みで決められていて、自由な時間はあまりない。
あったとしても、不規則で、普通に暮らしてる人たちとは時間があわない。
…電話をかけることさえ、ままならない。
出会って3ヶ月。直接会ったのはたった2回。
ずっと、メルともみたいな感じ。
は大学生だ。俺と10歳くらい離れてる。
こんなに年下の女の子に恋愛感情なんて持つはずがないと思ってた。
と、いうか、考えたこともなかった。
けれど、間違いなく俺はに惹かれ始めている。
仕事が終わった。
もう、3時を過ぎている。
電話なんてできるはじがない。
彼女はもう、寝ているだろう。
明日…いや、今日も朝から授業があるに違いない。
声を聞くのは無理だ。
電話なんてしたら迷惑だろう。
せめて、メールを送ろう。
件名:おやすみ
おはよう、。
君は目が覚めたらこのメールを見るんだろうね。
オレは今からやっと寝ることができるんだ。
はこんな不規則な生活しちゃダメだよ☆
じゃぁ、いってらっしゃい。おやすみ~♪
From博
送信した後、少し虚しくなった。
30過ぎたオヤジが、夢を見ようとしている。
恋という名の。
けれど、俺は「アイドル」で、は「ファン」なんだ。
の知ってる「長野博」は虚像でしかないんだ。
分かってるのに…。
目が覚めると9時前だった。
今日の仕事は午後5時からだから、のんびりできる。
ケータイを見ると、メールが来ていた。
それも、2通。
どちらもからだった。
件名:オハヨ☆
長野君、おはよう!
今日も仕事?大変そうだね。
私は今から学校に行ってきます!
お仕事頑張ってください♪
学生のより☆
思わず顔が緩む。
可愛いと思う。
すこし機嫌良くなって、次のメールを読む。
件名:ショック!
大ショックです!今日の講義、休講になってました!
早く教えてくれ!って感じです。
と、いうことで、私は今日、とっても暇です。
やることなくなっちゃいました。あーあ。
長野君はまだ寝てるのかなぁ?それとも、もう仕事?
どちらにしろ、会えるワケないんですけどね☆
では、暇になったでした。
メールが来ていたのは、15分くらい前だった。
は今日一日フリーらしい。
おれは、無意識のうちに携帯のメモリーからを探しだし、電話をかけていた。
『も、もしもし?』
の緊張した声が聞こえる。
「長野だけど」
『は、はいっ。どうしたんですか?』
俺から電話がかかってきたのが相当意外だったらしい。
「何でそんなにあわててるの?」
『だって、まさか、電話をかけてくれるなんて思ってなかったから…』
「そう?」
『あなたは、その、アイドルだし。いつも、仕事で忙しいみたいだったから』
心が、痛む。
は俺のファンだ。
俺の素顔なんて知らない。
「迷惑だった?」
『ううん、嬉しい』
が本当に嬉しそうに言う。
抱きしめたい。と思った。
電話では、顔を見ることさえ出来ない。
「今、何処にいるの?」
『学校の近くのカフェです。友達と今日、休講になったこと、グチってたんです』
「へぇ、そうなんだ」
少し笑ってしまった。
『…』
「、どうしたの?」
『…嬉しくて。長野君と話していることが。夢みたい。信じられない』
喜んでくれている。
けれど、それは俺が「アイドル」だから。
「そんなに信じられない?」
『はい』
「ひでぇ。俺が信用ないみたいじゃん」
おどけてみる。
『そ、そんな意味じゃ…!!』
「わかってるよ」
優しく言う。
『…うん』
思い切って、言ってみる。
「ねぇ、デートしよう?」
ちょっと、照れてしまう…。
『え?ええっ!?そ、そんな冗談…!!』
うろたえるの声。
「冗談じゃないんだけど」
『…本当?』
「うん。本当」
嫌がってるわけではないみたいで安心する。
『いつ、ですか?』
「今から」
『は!?』
は驚いている。
って、当たり前か。突然すぎるよな。
「今日は5時までフリーなんだ」
『私なんかと?』
「がいいんだけど」
しばらくが沈黙する。
「俺が車で迎えに行くから」
は黙ったままだ。
「それとも、今日は無理?」
『いくっ!』
が答えた。
『長野君に会いたい!』
「ありがとう」
嬉しくて、たまらない。
とデートができる。
「10時に君の学校の前でいい?」
『はい』
「じゃぁ、あとでね」
俺は、自分から電話を切ろうとしなかった。
も切ろうとしなかった。
1秒、2秒、3秒…。
どうしよう。
何か話そうか。
それとも、切ろうか。
電話の向こうから声が聞こえた。
『、電話長いよ』
男の声だ。
『誰と話してんの?もしかして男?』
そこで電話が切れた。
誰なんだ。
の彼氏なのか?
いや、ただの男友達かもしれない。
ああああああああ。
もう、悩んでいたって仕方ない。
答えは出ない。
10時。は校門の前で俺を待っていてくれた。
「お待たせ」
助手席の窓を開け、に声をかけた。
「本当に、きた…」
は、なんだか心ここにあらずだって感じだ。
俺が本当に来るとは思ってなかったらしい。
「乗りなよ」
「は、はい」
俺は手を伸ばして助手席のドアを開けた。
おずおずと車に乗る。
「シートベルト締めて。どこか行きたいところある?」
「どこでもいいです」
「そう?じゃあ、とりあえず、ご飯食べにいこうか?」
「そうですね」
俺はアクセルを踏んだ。
「なんか、楽しくなさそうだね」
助手席に座ったまま何も話さないに言った。
「そんなことないですっ」
あわてて答える。
「じゃぁ、もっと話そうよ?」
「そう、思うんですけど…」
「けど?」
「何を話したらいいか分からなくて…」
「何でもいいんだけどなぁ、君のことなら」
苦笑。
実は俺も何を話せばいいかわからない。
「友達のこととかは?だめ?」
のこと、知りたい。
「そうですね」
話題が見つかってホッとしているようだ。
「ほら、今日は休講だったからサ店で友達とグチってたんでしょ?」
「そうなんですよ~。昨日まで何も連絡なくて、掲示もなかったんですけど、今日学校にいったら休講って掲示があったんです」
「災難だったね」
「そうなんです!家に帰るにも電車なくてどうしようもなくなってしまって」
「で、サ店で時間つぶし?」
「そうです。あ、でも、今日、休講になってよかったな」
「え?何で?災難だったんじゃないの?」
「災難は災難だったんですけど、長野君と会えました☆」
嬉しいことを言ってくれる。
「喜んでもらえてよかったよ」
「//////喜ばない人なんていませんよ」
「そう?岡田とか、嫌がるんだけど」
「え?そうなんですか??」
「まぁね。そうだ、何人で時間つぶししてたの?」
「私をいれて4人です」
1人は男。あとの二人は?
「男の子も一緒だったよね?」
「…はい。なんで知ってるんですか?」
「電話切る前に声が聞こえたから」
「あ…、それで…」
「彼氏?」
心にもないことを言う。
自分で言っておきながら、その言葉に傷つく。
「ち、違いますよぉ」
「そうなの?」
「違います。ただの友達です。彼氏なんていません」
「そうなんだ」
「そうです」
少し疑いつつも、安心する。
「あとの2人は?」
「同じ講義とってる女の子です。そのうちの1人が一緒にいた男の子の彼女です☆」
「なるほど」
ホッとした。よかった~。
「仲良し4人組?」
「あ、そうかもしれませんね♪」
こんな感じで、俺たちは話を弾ませて昼飯を食べに向かうのでした☆
「もう4時ですねー」
が時計を見て言った。
今、を助手席に乗せて、彼女の家まで送り届ける最中。
もちろん、俺は次、仕事だから「送りオオカミ」にはならない。(笑)
「今日のデートはいかがでしたか?」
俺は、にたずねた。
「楽しかったです」
「良かった☆」
「もう、一生忘れられない日になりましたよ!」
本当に喜んでくれているようだ。
「また、一緒に遊ぼうね」
「え?」
何で疑問?
「嫌、なの?」
「ううん、そうじゃなくて」
「じゃぁ、何?」
苛立ちを隠せない俺。
大人げないと思う。
「長野君、忙しいから」
「え?」
「長野君は「アイドル」だから」
「そう…」
俺は、今日一日「アイドル」じゃない「長野博」でいたつもりなのに。にはそうじゃなかったのかな?
「俺、のこと友達だと思ってたけど、「アイドル」の俺のファンでしかなかったんだね」
悲しくなる。
苛立つ。
が傷ついた顔をしたのがわかる。
けれど、止まらない。
「ごめんなさい」
違う。俺はこんなことを言いたいんじゃない。
が泣いてしまった。
「そうじゃないんだ…」
俺は、そう呟くことしかできなかった。
の家の前に車を止める。
「…ごめん」
を見ると、目に涙が溜まっていた。
指で、の涙をぬぐう。
「俺、あんなことが言いたかったんじゃないんだ」
の目は怯えたままだ。
「ただ、に近づきたかっただけなんだ」
「長野君…?」
「本当のこと言うとね、のこと、友達だと思ってないんだ」
「え?」
「が、好き」
言ってしまった。
勢い。
「本当の俺を見て欲しいんだ。少しずつでいいから、俺を知って欲しいんだ」
が驚いている。
さっきまで溢れていた涙も止まってしまった。
「彼女になってくれって、言いたい…」
視線が絡む。
逸らせない。
「好きだよ」
の瞳から止まっていた涙が再び溢れだす。
「長野君…。ありがとう…。うれしい…」
「本当?」
「私も、好き…」
「俺、少しずつかもしれないけど本当の俺を見せるから、も本当のを見せて」
「うん…」
泣きじゃくるも可愛いと思った。
唇での涙をぬぐった。
は驚いている。
「実は俺、結構恥ずかしいヤツかも」
少し照れながら言った。
が笑った。
つられて俺も笑う。
幸せいっぱいで俺は仕事に向かった。
あとがき
一番はじめに書いたドリーム小説なのですが、初期の段階で一番最後に打ちました。
原型はもっとクサく、恋人にすらなりません。
ともだちになって終了。
自分でさすがに「これはダメだ」と思い、書き直しました。