The snow began to melt.



「これ、北海道みやげ♪」
 そう言って、あなたがくれたのは雪だるま。
  溶けてしまわないように、ずっと冷凍庫の中に入ってる。
 博があれ以来ココに来ていないことを、冷凍庫を開けるたびに、嫌でも思い出させてくれる。
 ありがた迷惑なシロモノ。
 もう、一ヶ月。
 たまにメールが来るくらいで、全然会ってない。
 それどころか、電話すらない。
 かけても出ない。
 忘れた頃にメールが来るだけ。
 声すら聞いていない。
 博が忙しいことくらい、分かってる。
 だけど、寂しい。
 博の声も温もりも、忘れてしまいそうになる。
 最近、自分が博を裏切りそうで怖い。
 職場の同僚に告白されてしまった。
 博のこと、誰にも言ってないからフリーだと思われてるらしくて…。
 すぐに、断れなかった。
 明日まで、答えを待ってもらった。
 こんな自分、嫌。
 だけど、冬は寒いから。
 一人でいたくなくて。
 暖かな腕を求めてしまう。
 博がいてくれれば、それだけでいいのに。
 それが叶わないから。
 代わりになるものを、求めてしまう。
 どうしよう。
 私、どうしたらいい?

 朝起きたら、とんでもないことに気づいた。
 冷凍庫の扉が、少し開いていた。
 開きっぱなしだった。
 これって、電気代がカナリかかるよね。
 それより何より、雪だるまが溶けていた。
 少しも形を留めていなくて。
 不安になる。
 博への思いが、雪だるまと一緒に水になって、流れていってしまいそうで。
 怖い。
 怖いよ。
 お願い、博。
 今すぐココに来て。
 私が博を裏切ってしまわないうちに。
 ねぇ。

 携帯が鳴る。
 着信相手を確認する。
 告白してくれた同僚から。
 出るか迷う。
 今、この電話に出たら、私、何を言うか分からない。
 だけど。
 出ないわけにはいかないから。
『もしもし?さん?』
 少し緊張した声が、耳に届く。
「うん」
『返事、聞いてもいいかな?』
 何も、言えない。
 口を開くのが、怖い。
『ごめん、一日待つって言ったけど、なんか待ちきれなくて。さん、今日仕事休みでしょ?会えないと思うと、なんだかさ。仕事の始まる前に電話したくなって』
 言わなきゃ。
 私には、彼氏がいるって。
 博がいるって。
「あの…」
『ご、ごめん。俺、焦りすぎだよな』
「えと…私…」
『一応聞くけど、もう、答えは出た?』
 答え?
 初めから出てる。
 私には博がいる。
 なのに。
 どうして?
 なんで私、それが言えないのよ。
『やっぱり、まだだよね。ごめんね。なんか、急かすみたいで』
 早く言わないと。
 私、私…。
『あ、もうこんな時間だ!仕事終わったら…夜、また連絡するね。それまでには、答え、出してもらえると嬉しいな』
「うん」
『じゃぁ、またね』
「また」
 携帯が、切れた。

 ただ、ずっと考えている。
 リビングで、ぼーっとしてる。
 博と二人で撮った写真を眺めてる。
 なんで、こんな気持ちになるんだろ。
 私、博が好き。
 愛してる。
 それは間違いないのに。
 寂しくて、寂しくて。
 博が私を愛してくれてるって、ちゃんと感じてる。
 なのに。
 心に積もった冷たい雪が、隠していく。
 博への愛情を見えなくする。
 最低。
 博を裏切りそうになってる。
 誰より優しい博を。
 同僚にだって失礼だよ。
 ただ、温もりが欲しいだけでその手を取ろうとするなんて。
 そう思うのに。
 理性は、シグナルを鳴らすのに。
 私、断れなかった。
 博のこと、言えなかった。
 どうして、正しい選択を拒んでるんだろう。
 ココに博さえいてくれたら…。
 私、迷ったりしないのに。

 いつのまにか暗くなっていた。
 一人、部屋で座り込んだまま。
 携帯が鳴る。
 マナーモードにしたから、音さえしない。
 闇の中で、着信を知らせるイルミネーションだけが光る。
「…もしもし」
 相手が誰かなんて確かめないで出る。
 きっと、答えを求める電話だろうから。
?』
 …博?
『今日って、休みの日だよね?家に電気ついてないけど、どこかでかけてるの?』
 博だ。
 涙が溢れてきた。
の部屋で帰ってくるの待っててもいい?早く会いたくて、急いできたんだけど』
 溢れてきて、止まらない。
?どうしたの?泣いてるの?』
 博の声がする。
 一月振りに聞く声。
 愛しい人の声。
 大好きな声。
『ねぇ、。もしかして、家の中にいるの?』
「…うん」
 涙で、声が上手く出せなかった。
『すぐいくからっ』
 玄関を開ける音がする。
 博が、来る。
 博に会える。

!!」
 博が、きつく抱きしめてくれる。
 あったかい。
 ずっと待っていた。
 このぬくもりを。
 他のなにかでなんて、きっと補えない。
 博の、暖かさ。
?どうしたの?何かあったの?」
 優しい声が降ってくる。
「ねぇ、博。私、博が好きだよ」
「うん」
「愛してる」
「俺も、愛してる」
 さっきまでの迷いなんて、嘘みたいに吹き飛んで。
 私には、博しかいないんだって、実感する。
 私には、博だけいればいいんだって。
 心に積もった雪が、溶けて流れていく。
 自分の本当の気持ちが、見えてきた。
 ちゃんと、博のこと、愛してる。
 大丈夫。
 私、博を愛してる。

 手の中にある携帯が震える。
 告白してくれた同僚からだった。
 博を見る。
 微笑んでくれている。
 無言のまま、「出ないの?」って。
「もしもし」
『もしもし、さん?』
「うん」
『答え、出た?』
「うん」
『本当!?』
 博の手を握る。
 温かい。
「早く言わなきゃって思ってたんだけど、言えずにいて。あのね、私、彼氏、いるんだ」
 博を見る。
 ちょっと、不安そうな顔をしてる。
 大丈夫だよって、微笑む。
『そう、なの?』
「うん。ごめんね。黙ってて」
『そうだよね。さんみたいな素敵な人に、彼氏、いないわけないよね』
「ごめんね」
 博と繋いだ手に力を込める。
 握り返してくれる。
『あの、さ。明日から、気まずくなったりしないでくれる?告白したこと、忘れてくれて良いから、今まで通り仲良くして欲しいんだ』
「うんっ」

、何の話してたの?」
 携帯を切ったら、博が言った。
「告白されたの、断った」
「…そっか」
 博が、ぎゅって私を抱きしめた。
「博?」
「断ってくれて、良かった」
「…え?」
 ドキっとした。
 私の思ってたこと、気づかれたのかと思った。
「俺、いつも不安なんだ」
「不安?」
「そう、不安で仕方ないんだ。だって、俺、の側にずっといること、出来ないから。いつか、が離れていってしまうんじゃないかって」
 博の腕がきつくなる。
 私、何も言えない。
 寂しくて、博から離れてしまいそうになった。
 博が不安に思ってること、してしまいそうになってた。
「博…」
 私も、博をぎゅっと抱き返す。
「ねぇ、博。毎日とは言わないから、一週間に一回くらい電話ちょうだい?何時でもいい。夜中でも、早朝でもいいから」
?」
「私ね、博に会えなくても、博の声聞けるだけで、きっと、大丈夫だから」
 もう二度と、博を裏切るようなこと、したくない。
「留守電にメッセージ残してくれるだけでいい。一言でいいから」
?どうしたの?突然」
 博が、細い声で訊ねてくる。
「寂しいの。だから…」
 うつむく私。
「ごめん。。ごめんね…」
 博が、少し、震えてる…?
「博?」
「電話、するよ。寂しい思いさせてごめん。が、望むこと、何でもするよ」
「…何でも?」
「あぁ。の望むことなら、何でも」
 震えてる。
 博の声も、身体も。
「私、博がいてくれたら、他に何もいらないよ?」
 だから、そんなに不安にならないで。
、俺…」
「愛してる。博のこと、誰よりも」

 私たちは、一緒にいないと、不安で仕方ないんだ。
 私だけじゃない。
 博だけじゃない。
 誰よりも、愛してるから。
 何よりも、大切だから。
 失うことを恐れてる。
 だけど、ずっと一緒にいることなんて出来なくて。
 私にも、博にも、仕事があって。
 人は、働かないと生きていけないから。
 お金がないと、生きていけないから。

「愛してる」
 その言葉を確かめるみたいに、手を繋いで。
 互いの温もりだけが、全てで。
 この暖かさだけが、真実で。
 ねぇ、博。
 ずぅっと、こうしてたいね。
 例え世界が雪に包まれても、私たちだけは暖かなままで。
 雪なんて、全て溶かしてしまうほど。

 愛してる。



あとがき
いや、もう、雪なんてシーズンじゃなくなりかけていますが。(汗)
あー、スキー行きたいなぁ。3年くらい言ってないや。←どうでもええっつーの
謎くて申し訳ないっす~。