君が思い出す僕



 ねぇ、
 君は今、幸せでいるかな?
 何事もなかったみたいに、目が覚めたら、横に君がいたらいいのに。
 なんて思う僕を、君は知っているかな?
 ねぇ、
 今更だけど。
 本当に好きだったんだ。
 本当は、今でも。

「明日はちょっと無理」
 別に仕事があるわけじゃない。
 だけど、どうしても行きたい店がある。
『そっか。ざんねんだけど』
 電話越しに少し落胆した声が聞こえる。
「次の休みはあけとくから」
 少ない休みのすべてを、に割くことが僕にはできない。
 やりたいことがたくさんあって、時間がいくらあっても足りない。
 だからって、を失うつもりもない。
 そして、わがままを言わないで、僕を理解してくれているから。
『じゃぁ、次のお休みがわかったら教えてね』
 いつもの明るい声。
 デートらしいことはほとんどしないけれど、会っていないわけではないし。
 仕事が早く終われば会いに行くし、それで充分だと思ってる。

 そんな日々は、君を孤独にしていったんだと思う。

「博くん」
 いつものように、仕事帰りに君の部屋に寄って、一緒にテレビ見て、くつろいで。
 次の日から仕事が忙しくなる僕は、そろそろ帰ろうかなって思ってた頃だった。
「ん? 何?」
 少し暗い声のを、珍しいな、なんて思いながら返事した。
「私、ずっと待ってなきゃいけないの?」
 ぽつり、と一言。
 だけど、僕は君の言葉の意図がわからなくて、黙っていた。
「あ、ごめん。博くんがお仕事忙しくて、なかなか予定がわからないのは理解してるつもりなんだけど……。ごめんね。なんか、変なこと言っちゃって」
 あわててそんなことを言う君を、その時の僕は可愛いなんて思っていて。
「気にしてないよ」
 なんて、自分本位な返事を、本気で自分を気遣ってくれてるんだって思って言っていた。
 あの頃の僕は、全く分かっていなかった。
 待たせるのが当たり前で。
 僕の都合ばかりを押し付けて。
 多少悪いとは思っていながら、仕事だから、時間がないから仕方がないなんて思っていて。
 サインだったんだ。
 きっと、あの時が、君の我慢の限界だったんだろう。
 今になって、ようやく。
 そんな気がするんだ。
 会えないさみしさを。
 自分から何もすることのできない孤独を。
 やっと、理解し始めたんだと思う。

 いつの間にか、君からの連絡がなくなっていた。
 連絡は、僕からしかしていなくて。
 でも、僕はその事実に気づいていなかった。
 仕事が忙しいからって、僕は連絡をずっとしていなくて。
 そういえば、長い間会っていないなって、ふと思って。
 久々に、メールをした。
 だけど、宛先不明で帰ってきた。
 馬鹿な僕は、アドレス変更のメールが来ていたのに、登録し忘れていたんだろうと思って。
 仕事場だったから、電話はしなくて。
 そしたら、そのまま、また。
 連絡するのを忘れて。
 それから一か月近くたって。
 そういえばって、やっと、連絡した。

 電話なんて、通じるわけがなかった。
 傲慢な僕は、君は、ずっと僕のそばにいるのだと思っていた。
 君から離れていくことなんて、ないと思っていた。
 もっと早く、君に連絡していれば。
 もっと早く、君の孤独に気づいていれば。
 今更、としか言いようのない思いがめぐる。
 後悔なんて、山ほどあるけど。
 きっと、君の気持ちには、僕の想像は程遠いんだろう。
 あの時。
 君がさみしいのだと気づいていれば。
 ごめん、と一言でも言えていたら。
 少しは、今と違っていたかな?
 ちゃんと、好きだって、言葉で伝えていたなら。
 って、名前を呼んでいたなら。
 きっと、もう。
 君を取り戻すことはできないのだろうけれど。

 今、君は、どこにいるの?
 誰といるの?
 僕は、自分から、君に会いに行くことも、連絡を取ることもできない。
 好きだと伝えることも。
 ごめんって謝ることも。
 何もできない。
 さみしくて。
 さみしくて。
 悲しくて。
 会いたくて。
 僕は、ずっと君にこんな思いをさせていたんだろう。
 今、やっと、反省しているよ。
 もう遅いんだろうけれど。

 もし、僕のことを思い出してくれたとしても。
 きっと、いい思い出なんかより、苦しい思いばかりが君を襲うんだろう。
 それなら、僕は。
 僕のことを思い出して、戻ってきてほしいけれど。
 僕が君を苦しめてしまうのならば。
 僕を忘れて、幸せになってほしいと思う。

 うそだ。

 好きだ。
 
 お願い。
 声を聴かせて。
 そばにいて。



あとがき
完全に「君君」がベースにあります。
更新何年ぶりだ、これ!?w