豪雨



 約束をした。
 夜、七時半に会おうって。
 いつも、約束の時間より先に准一はいるのに。
 今日は、いない。
 不安になる。
 わかってる。
 准一はきっと仕事なんだって。
 だけど。
 准一がいないなんて、初めてで。
 私、捨てられた?
 准一に、嫌われた?
 もともと私が告白して、准一はたまたま彼女がいなくて。
 だから、「いいよ」って。
 誰か、好きな人ができた?
 それとも、嫌いになった?
 嫌だよ。
 私、准一がすべてなのに。
 窓の外は雨で。
 ときどき、青白く光る。
 聞こえる音は、単調で。
 それを壊すように、風が窓を揺らす。
 その音が、恐くて。
 耳を塞いで、小さくなる。
 二人だけの部屋の真ん中で。
 小さな部屋の真ん中で。
 誰にも二人の邪魔をされたくないって、アパートを借りた。
 デートはいつもこの小さな空間。
 ここが、私たちのすべて。
 でも、それって。
 もしかして。
 ここを出たら、私と准一は他人ってこと?
 准一は誰にも私の存在を知られたくなくて、ここでしか会わない?
 だって、この関係は二人だけの秘密で。
 私が友達に言えないのは当たり前のことかもしれないけれど。
 准一も、誰にも言わないのはなぜ?
 本当の家族だと思ってるって言ってたメンバーにも紹介してくれないの?
 メンバーには隠し事したくないって笑った准一は何?

 大きな音がした。

?」
 振り向くと、准一がいた。
 さっきのは、ドアの音だったみたい。
「どうしたの?そんなに泣いて。雷、恐い?」
 そう言う准一は、びしょぬれだった。
 私は、准一にしがみついた。
?恐いのか?」

 自分が震えていることに気付いた。
 声を出そうとしても、口がうまく動かない。
 准一が私から離れようとする。
「…あ」
 行かないで、と言いたかった。
 だけど、声にならなくて。
「服、着替えるだけだから。?大丈夫だよ」
 准一は私に微笑んだ。
 私はうなずくことしかできなくて。
 准一が、離れていくのを止められない。
 准一が離れていくのを、止めることができない。
 いつか、准一が私から本当に離れようとしても。
 きっと、私は止められない。
 たとえ、私が准一なしでは生きていけなくても。

 Tシャツとジャージに着替えた准一が戻ってきた。
「お仕事、長引いたの?」
 できるだけ、平静を保とうと努力する。
「うーん。そうでもないんやけど」
 …え?
「そう」
 精一杯の返事。
 嘘?
 仕事じゃないの?
 なのに、遅かったの?
「ちょっと、メンバーに捕まってさ」
「そっか」
 安堵する。
 メンバーなら、仕方ないよね。
、もう大丈夫なん?」
「…え?」
「雷。もう、あんまり鳴らないけど」
「あ…うん」
 雷なんて恐くない。
 きっと、私が涙してた理由、准一にはわからない。
「今から出かけようと思ってたんやけど、止めたほうがええよな?」
「出かける?」
 准一、どっかいっちゃうの?
 それとも。
 まさか。
「うん。たまには一緒に食べに行ってもいいかな、って」
 私と?
「行くっ!」
 行く。
 行きたい。
 付き合いはじめてから、どこかに一緒にいったことなんて、無いに等しくて。
 出たかった。
 この部屋も大切だけど。
 もっと、堂々と。
 准一が私の恋人なんだって、感じたくて。
「雷、平気なの?」
「うん」
 雷なんて恐くない。
 私が恐かったのは、准一を失うこと。
「じゃぁ、支度しようか」
「うんっ」

「准一?ここって…」
 出かけるって言うから、レストランでも行くのかと思ったのに。
 マンション?
 誰の?
 オートロックだけど、准一は鍵を持ってないらしくて。
 准一は部屋番号押す。
『はい』
 かえってきたのは、男の人の声。
「あ、オレ」
『へいへい』
 名前さえ准一は名乗らないまま、扉が開く。
「行くよ」
「あ、うん」
 でも、さっきの声…。
 どこかで聞いたことあるような?
 気のせいかな?
 准一が、足を止める。
「ここ?」
 准一にたずねる。
 准一はうなずく。
「俺んち」
 …え?
 准一の、うち?
 どういうこと?
 今まで、一度も連れてきてくれなかったのに。
 初めてだよ。
 どうして、突然…?
「岡田っっ!」
 扉が勢い良く開いて。
 中から現れた人物に抱きつかれて、准一は倒れた。
「ちょっと!重いって!!」
 愚痴る准一に乗り掛かっているのは…。
「だーって准ちゃん遅いんだもーんっ」
 …井ノ原くん?
「あ!」
 井ノ原くんが私を見る。
「初めまして!かわいいね!ナニちゃん?」
 笑顔で聞いてくる井ノ原くんに准一のパンチがはいる。
「邪魔」
 立ち上がった准一は、私の腕を引いた。
に触るなよ?」
 抱き締めてくれる。
 初めて。
 初めて二人きりじゃないときに、彼女らしいことしてもらった。
ちゃんって言うんだ?俺井ノ原。ヨロシク」
 井ノ原くんの笑顔が、少しずつ歪みはじめて…。
?」
 准一の手が頬に触れて、気付く。
 私、泣いてる?
「ナニ?俺に会えたのがそんなに嬉しかった?」
 小さくうなづく。
「うわっ!井ノ原くんが女の子泣かしてるぅ!!」
 玄関から新たに顔をだしたのは、三宅くん。
「うわっマジだ!最低っ!」
 次に顔をのぞかせたのは森田くん。
「なんだよおまえら!俺に会えて嬉しくてちゃんは感動してんだよ!」
 井ノ原くんが言って。
「うそだぁ!井ノ原くんに会って嬉しい人間がいるわけないじゃんっ」
「健っ!そりゃないだろ!ちゃん頷いてくれたんだぞ!」
「かわいそうに…。井ノ原くんに脅迫されたんだね☆」
 三宅くんと井ノ原くんが言い争ってて。
「つうか、ちゃんマジ可愛いね。なんで岡田の彼女なの?もったいないよ。俺にしない?」
「ご、剛くん!?」
「うるせーな。岡田はひっこんでろよ。ね、ちゃんどう?」
「おい、おまえらいい加減にしろよ」
 坂本くんだ。
「岡田の彼女困ってるだろ?」
「そうそう。近所迷惑だし」
 長野くんも。
「おなかもすいたし、ご飯食べよ?」
「そうだな」
 健くんと剛くんが行って。
「中で待ってるから」
「ちなみに今日は坂本くんのオムライスがメインだから♪」
 坂本くんと長野くんも行って。
、行こ?」
 准一が私の手を握って。
「そんなに緊張しないで」
 井ノ原くんが、ほほえんでる。
「今日は、岡田がやっとちゃんを紹介してくれる気になって、みんな喜んでるんだ」
「…え?」
「い、いのっち!!」
 准一は顔を赤くしてる。
「見せるのがもったいないって。コイツ、意外と独占欲強いみたいだよ」
 笑顔で言って井ノ原くんは中にはいってく。
 見ると、准一はすねたような顔してる。
 いいな。
 嬉しいよ。
 ずっとずっと会いたかった。
 いつも准一といられる人たちに会いたかった。
 私が准一の彼女なんだっていう確信がほしかった。
 私、幸せだよ。
 ずっと、淋しかった。
 さみしくて、さみしくて。
 准一が傍にいなくて不安で。
 だけど、今は。

 大好き。



あとがき
書き始めたのと書き終わったので時差がありすぎる作品です。
放置してました。(爆)
結局何が書きたかったんだろう…??(ぇ