DANGER



 愛していると、伝えたかっただけなのに。
 愛していると、伝えたかったはずなのに。

 はいつも俺を兄貴みたいに慕ってくれてた。
 うれしかった。
 だけど、悲しかった。
 俺は、を女として愛してたから。
 好きで、好きで、どうしようもなかった。
 が望むなら、兄貴みたいになろうって思ったこともある。
 無理だった。
 が欲しくてたまらなかった。
 だから、絶対二人きりになったりしなかった。
 俺、自信なかったから。
 のこと、好きすぎて。
 なのに。
 が、来た。
 一人で、俺の部屋に。
 雨の降る夜に、泣きながら。
 帰すわけにもいかなかった。
 だから、二人きりになってしまった。
 は、泣いていた。
 泣いていたんだ。
 理由は、男。
 喧嘩。
 彼氏。
 そう、俺は報われるはずがないんだ。
 には、誰よりも愛するひとがいる。
 俺じゃない、誰か。
 だから、保っていられる距離がある。
 なのに、その誰かとの関係が不安定なとき、俺を訪ねる。
 壊したくなる。
 俺のものにしたくなる。
 だけどは、俺に頼ってくる。
 いつまでも、俺が保っていられるはずなんてない。
 俺、男だから。
 このままの関係を続けるのは無理。
 もう、限界がきている。
 それでも、どうにか。
 なんとか、君を傷つけたくなくて。
 を傷つけたくなくて。
 どうにか、理性を保ってきたのに。

?」
 俺の腕の中で、泣き続けている君の名前を呼ぶ。
 ありふれた、聞き慣れた、何よりも大切な名前。
 俺を見上げた君は、目を真っ赤にして。
 それでも。
 まだ、その瞳に涙を浮かべて。
「ごめんね、健くん」
 悲しそうに微笑もうとする、が痛い。
 その「ごめん」は、何に対してなの?
 俺の気持ちを知ってるの?
 それとも、単純に「迷惑かけてごめん」なの?
 それから、にそんな顔させてる男に嫉妬する。
 どんなに喧嘩しても、泣いても、それでも好きなの?
 俺は、兄貴でしかないの?
 こんな気持ち、言えなくて、を強く抱きしめる。
 こうすれば、俺の顔も、君の顔も見えない。
「大丈夫だよ」
 俺は、心にもない一言を口にする。
 このまま、別れてくれればいいって思ってるけど。
 君が求めてるのがそんな言葉じゃないことくらい、分かってる。
 だから、言うんだ。
「大丈夫だよ」
 みたいな最高にいい女、誰だって手放したくないさ。
 きっと、そいつは放っておいても君の元にかえってくる。
 そう思うと、余計嫉妬する。
 に選ばれたのが、俺じゃないことに。
「…あのね」
 が、俺から離れた。
 離れたくなくて、抱きしめそうになった手をかろうじて引っ込めた。
 もう、涙は流してなかった。
 自分の中で決着をつけたらしい。
 いつもそうだ。
 俺は、隣にいるだけで何もしない。
 いや、何も出来ないんだ。
「今日、泊めてもらってもいい?」
「…え?」
「お願い。帰りたくないの」
 そんな目で、みないでくれ。
 俺のこと、信じないでくれ。
 男なんだ。
 俺は、兄貴なんかじゃない。
 男なんだよ。
「…まぁ、いいけど」
 断れなかった。
 断れるハズなんてなかった。
 が、本気で言ってるんだから。
 別々の場所に寝れば、問題ない。
 そうだよ。
 違う部屋にいれば。
 きっと、大丈夫。
 自分に言い聞かせる。
「ありがとぉ」
 嬉しそうに、安堵したように言う。
 分かってない。
 俺のこと、全然分かってない。
「ほら、風呂入ってこい」
 微笑んでやる。
 上手く笑えてないかもしれない。
「うん」
 がゆっくり風呂に向かう。
「出てきたら、もう泣くなよ」
 命令形で言う。
「うんっ」
 いつもの、だった。
 よかった。
 そう、素直に思えないのはイケナイコトなのかな?

 俺のベッドにを寝かしつけて、ソファーに寝転がる。
 ずっと、手を繋いでいた。
 が「寝るまで離さないで」と言ったから。
 どんな気持ちだったと思う?
 俺のベッドに、誰よりも愛しい女が寝てるんだぜ?
 だけど、手を繋ぐことしか許されなくて。
 こんなの、苦しいだけだ。
 ただ、苦しくて、切なくて。
 どうすることもできない思い。
 どうしたらいいんだろう?
 どうするのがいいんだろう?
 消えない思い。
 消せない思い。
 への思い。
 どうしたらいい?
 俺は、いつまで我慢できる?
 今日一日だけで、何度彼女を自分のものにしたいと思った?
 何度、襲いそうになった?

「健くん…」
 声がした。
「ん?」
 目を開けると、がいた。
「どうした?」
 暗闇に立つに声をかける。
 彼女だけが、ハッキリと見えた。
「一緒に、寝よ?」
 俺は、耳を疑った。
 いや、違う。
 めまいがした。
 何を、言ってる?
「ひとりじゃ、寝れないよ」
 淋しそうな声で、言う。
「お願い、健くん」
 その声で、俺の名前を呼ばないで。
 呼ばないで。
 俺、耐えられなくなるよ。
 何するか分からないよ。
 呼ばないで。
「ねぇ、健くん」
 もう、我慢の限界だった。

 気が付くと、が泣いていた。
 泣いて、目を固く閉じていた。
 服が、少しはだけていた。
 綺麗な肌に、いくつかの痣が見えた。
 …キスマーク?
 俺は、何をした?
「…?」
 恐る恐る、名前を呼ぶ。
 彼女の身体は大きく震えた。
 恐がっている。
 俺を。
 自分のいる位地に気づく。
 床に倒れるの上に、覆い被さっていた。
 すぐに、自分の身体を移動させる。
 今、何をしてた?
 押し倒した?
 俺が、押し倒した?
 そうとしか、思えない。
 俺は、何をしていたんだ?
「ねぇ、
 彼女の名前を呼ぶ俺の声は、震えている。
 彼女の身体も、震えている。
「俺…」
 何も言えない。
 自分が何をしたのかも、分からなくて。
 は、動かない。
 ただ、震え続けている。
 乱れたの服を直そうと手を伸ばす。
 触れる前に、の身体が、拒絶の反応を示す。
 触れられない。
 出来ない。
 これ以上、傷つけたくない。
 どうして、こんなに彼女を傷つけてしまったんだろう。
 俺は、何がしたかったんだろう?
 何をしたんだろう。

 床に倒れたまま動かない、いや、動けないでいるに毛布を掛けて、俺は自分の部屋に閉じこもった。
 俺は、彼女の側にいない方がいい。
 彼女の前を去ったからといって、現実は変わらないだろうけど。
 変わるはずがないんだけど。
 俺がしたこと。
 俺は、にとんでもないことをした。
 には、彼氏がいるのに。
 なのに、襲った。
 キス。
 口だけじゃなくて。
 首筋に、胸に。
 取り返しのつかないこと。
 俺の行動が?
 それだけなら、まだいいんだ。
 が、傷ついた。
 傷つけた。
 俺がを傷つけた。
 今まで、ずっと我慢してたのに。
 こんなこと、したくなくて、我慢してたのに。
 突き放せば良かった?
 自分がヤバイの分かってて、泊めようとした俺。
 そう。
 泊めてしまったのは俺。
 ゴメン。
 ゴメンね。
 こんな言葉、何の意味も持たないけど。
 俺に出来るコトなんて、きっと何もないけど。
 ねぇ、
 俺は、どうしたらいい?

 朝が来た。
 一睡もできなかった。
 きっと、も。
 できるはず、ないよな。
 朝食を作って、テーブルに置く。
 は、俺から遠く離れて、こっちを見ようとしない。
 当たり前だ。
 全部、俺が悪いんだから。
 自分の分をさっさと食べて、席を離れる。
「食べたくないかもしれないけど、ちゃんと食べてね?」
 が一番聞きたくないであろう俺の声で、言う。
 言い訳は、しない。
 事実は事実だ。
 そして、謝ることしかできない俺。
 情けない。
「ごめん」
 それしか、言えなくて。
 壊れたレコードみたいに、その言葉だけを繰り返してる。
 バカだ。
 俺は、本当にバカだ。
 世界で一番傷つけたくない人を、裏切った。
 裏切った。
 …最低。

「ねぇ、健くん」
 の、声。
 あれ以来、初めて。
 あのとき以来初めて、が口を利いた。
 言葉を発した。
 俺は、信じられなくてを見た。
 は、真っ直ぐ俺を見ていた。
「なんで、あんなことしたの?」
 今にも、壊れそうなが、それでも俺を見据えている。
 もう、嘘はつけなかった。
 嘘はつきたくなかった。
が、好きで。ずっと前から好きで。言えなくて、我慢してた」
 の瞳は、澄んでいて、痛かった。
「ずっと我慢してて、どうしようもなくて。昨日、が泊まるって言ったとき、ヤバイと思ったんだ。だけど、違う部屋なら大丈夫だって思ってた」
 もう、辛くて、目を逸らした。
「じゃぁ、健くんに甘えた私が悪かったの?」
 震える声が聞こえた。
「違うよ!」
 すぐに、否定した。
は悪くない。俺がいけないんだ。俺が、こんな気持ち…。俺が、俺が」
 もう、言葉が続かなかった。
 自己嫌悪なんかしていても仕方ないって、分かってるのに。
「健くん…。泣いてるの?」
 言われて自分の頬を触る。
 指が濡れた。
「あれ?」
 何で、俺、泣いてるの?
 泣けば、何かが変わるのか?
 そんなはず無い。
 涙なんて、流す必要ないのに。
 同情なんて、されちゃいけない。
 俺が、悪いのだから。
「俺、の望むこと、何でもしてあげたいって思ってた。今も思ってる」
 涙なんて拭いて、を見る。
「だから、何でも言って。俺、もし、がもう、俺の顔を見たくもないって思うんだったら、声も聞きたくないって思うんだったら、二度と連絡とらないから」
 嘘じゃない。
 俺、もう、君を悲しませたくない。
「私、ずっと、健くんのこと、お兄ちゃんだって思ってた。だけど…」
 ごめんね。
 俺、兄貴にはなれなかったよ。
 なろうとしたけど、出来なかった。
「昨日、すっごく、怖かった。健くんが、見たことのない表情で、私を見てた。すごく、力が強くて、逃げられなかった」
 微かに残る記憶がだんだんと色づいていく。
 俺がしたこと。
 にしてしまったこと。
「前みたいに、健くんといるのは、もう、出来ないよ」
 言われて、少し胸が痛かった。
 当たり前のことなのに。
「でも、やっぱり、嫌いになんて、なれないから。友達、続けてたい」
 救われた気持ちだった。
 凄く、嬉しかった。

 俺が、を傷つけたのは事実。
 俺の報われない恋は、最悪の形で知られてしまった。
 最低の自分。
 最悪な俺。
 いつか、君に。
 愛していると、伝えたかっただけなのに。
 愛していると、伝えたかったはずなのに。



あとがき
久々に書いたら、痛いしまとまってないし…。
ごめんね、健くんっ!おいら、ダメダメで~!!(汗)