dizzy



 ある日、いきなり電話があった。
『あのね、
 久々に大好きな人の声を聞いた。
 嬉しかった。
 なのに。
『別れよう?』
 予想もしなかった一言。
「え?」
 驚いて、その一言が精一杯だった。
『さよなら』
 そして、電話が切れた。

「ごめんね。呼び出したりして」
 あれから健くんの携帯は一切つながらなくなっていて。
 私は、どうしようもなかった。
 だけど、健くんと別れたくなんてなかった。
 私が悪かったんだと思う。
 それでも別れたくなんてない。
 だから、唯一健くんと共通の友達に相談することにした。
 彼が忙しいのも分かっていた。
 それでも来てくれた。
「いいんだよ、俺も気になってたから」
 イノッチは微笑んでくれた。
「健くん、どうしてる?」
「どうもこうもねえよ。普通のフリしてる」
 苦笑するイノッチ。
「そっか」
 言葉が続かない。
 健くんが辛そうな顔をしているのなんて見たくない。
 だけど、私と別れて生き生きしてる姿はもっと見たくない。
 我が儘だって分かってる。
 ヒドイ女。
「何で、別れたの?」
 イノッチの当たり前の質問が痛い。
「わかんない」
「わかんない?」
 不思議そうな顔でイノッチが見てる。
「いきなり健くんから電話があったの。『別れよう』って」
「いきなり?」
 イノッチがこっちを見ている。
 それだけなのに、何故か責められてるような気がしてくる。
「私が悪かったんだと思う」
「どうして?」
 真っ直ぐなイノッチの目が酷くツライ。
「私、仕事人間でしょ?最近大きい仕事があったから、健くんの誘いより仕事を優先することが多くて。ずっと会わなかったから、健くんに愛想を尽かされたんだと思う」
「そっか」
 流れる沈黙の時間。
 先に口を開いたのはイノッチの方だった。
「で?どうしたいの?そのために俺を呼び出したんだろ?」
 そう。
 私は、イノッチに頼るしかなかった。
「別れたくないの。健くんと別れたくない。だから、ちゃんと健くんと話をしたい。ちゃんと気持ちを伝えたい。一方的に言われただけじゃ、諦められないよ」
 いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
「わかった」
 イノッチは優しく微笑んでくれた。

 イノッチが健くんと会わせてくれた。
 そして、私たちを置き去りにしてイノッチはいなくなった。
「あのね、健くん」
 重い空気の中に、どうにか言葉を発することができた。
「私、健くんと別れたくないよ」
 嘘偽りない本心。
 健くんと別れたくない。
 健くんが好き。
 健くんを愛してる。
……」
 健くんが、私の名前を呟いた。
 声が暗い。
「別れたくないよ。健くんと一緒にいたいよ」
「一緒にいたい?」
 健くんが顔を上げた。
「本当に、そう思っているの?」
 健くんの目が私を見ている。
「本当。嘘じゃない。一緒にいたい」
 分かって欲しい。
 嘘じゃない。
 私が健くんを傷つけたのは分かってる。
 許して欲しいなんて言えない。
 それでも一緒にいたい。
「……ボクの我が儘だったのかもしれない」
 健くんが言った。
「違うよ。私の我が儘だよ」
 仕事は成功させたい、だけど、健くんも失いたくない。
 ひどく我が儘。
「ボクも、と別れたくない」
 健くんが涙ぐんでいた。
「健くん……」
「ボク、に『さよなら』言った後、涙止まらなくて。仕事も手がつかなくて」
 私が仕事ばかり優先している間に、健くんはすごく苦しんでたんだと思う。
「ごめんね、。ボク、もっと強くなるから」
「ううん。私、もっと自分から健くんと会う時間つくるよ」
 はじめから会える時間なんて作れないとおもっちゃいけないんだ。
 きっと、会おうと思えば時間なんてどうにかつくれるんだ。
「ごめんね、健くん。ありがとう」
 私は健君が好き。
 大好き。
 これからも、一緒にいて。



あとがき
はい、「busy」の続きです。
続きにしては何かタッチが違うんですが。
書いた時期が根本的に違いますからな。
はっはっは。