似すぎた二人2
別れて10日目の朝。
携帯に電話。
博じゃないことは分かっていた。
きっと、もう彼が私に自分から連絡を取ろうとすることはない。
彼はそういう人だから。
携帯の液晶には「坂本昌行」の文字。
電話に出るか一瞬戸惑う。
だけど、指は勝手に通話ボタンを押す。
「…もしもし」
『あ、俺…坂本だけど』
「うん」
2人とも何も言えなくなって。
坂本くんが何を言いたいのか分かっているから。
『今夜、時間ある?』
やっと彼が口に出した言葉。
「…」
答えられないでいる私。
『話がしたいんだけど』
「…分かった」
いつか、話すことなら、早い方が気が楽になっていいのかもしれない。
『じゃぁ、「AIR」で会おう。そうだな…9時。撮影が8時には終わる予定だから9時くらいなら行けると思うんだ。』
「うん、いいよ」
きっと、今の私の声は無機質。
坂本くんの声がすごく人間的に思えて仕方ない。
『ごめんね、突然こんな電話して』
「気にしてないよ」
『そっか…。じゃぁ、また今夜』
「9時に「AIR」でいいのね?待ってる」
『ありがとう』
「じゃあね」
『うん、また』
夜9時。
バー「AIR」。
始めて坂本くんと出会った店。
博が来ることのない店。
昔、私が常連だった店。
静かでも、うるさくなくて、心が落ち着く場所。
一人になれる場所。
坂本くんの姿はまだなくて。
私はカウンターに座って待つことにした。
彼と飲む時は、いつもカウンターでだったから。
「久しぶりだね」
カウンター越しにマスターが声をかけてきた。
「お久しぶりです。私のこと覚えてたんですね」
偽物の笑顔で言う。
「常連さんを忘れたりしないよ。確かに最近…いや、ずいぶんご無沙汰だったけどね」
マスターが微笑む。
「何かあったの?突然一人で来るなんて」
「ん…、あったかな。でも、今日は人と待ち合わせなの」
「へぇ?」
「ちょっと話をすることになったの、ここで」
「そう。待ってる間に何か飲む?いつものでいい?」
「うん」
返事をすると私のお気に入りだったカクテルを作ってくれた。
博はお酒を飲まない人だから、こういうところに来たりしなかったせいか、妙にその味が懐かしかった。
その、たった1杯を10分、20分とかけて飲む。
喉なんて乾いてなかったから。
乾いているのは私の心だったから。
坂本くんはまだ来ない。
9時半。
約束の時間はとっくに過ぎている。
「オネーサン、1人?」
「俺らと一緒しない?」
他のテーブルで飲んでいた20代前半の男の子が2人やってきた。
「ごめん。私人を待ってるから」
そっけなく答える。
「いいじゃん。もう30分もここにいるでしょ?そんな言い訳しないでよ」
困った。
こんな子たちの相手をしてあげられるほど、振り払うほど、私は心に余裕がない。
「言い訳じゃないぞ」
背後から声がした。
「ごめん、お待たせ」
そう言って彼は私に小さく頭を下げた。
「坂本くん…」
私をナンパしようとしていた男の子2人は、彼を見て驚いている。
「V6の…」
坂本くんは自分の口に指をあてて、悪戯っぽく微笑んだ。
「内緒な?」
2人の男の子はコクコク頷いて自分達の席に戻っていった。
あとがき
今回は名前変換なしです。何も考えず書いてたら、名前が全くありませんでした。(爆)
全く現れない主役のはずの博。…ごめんねぇ。6話で登場します。(随分先だな、おい)