イチゴ



 …来てしまった。
「まーくん??」
 後ろから声がして振り返る。

 不思議そうな顔をしたが立っていた。
「よぉ」
 普通に挨拶した。
 本当は心臓バクバクいってんだけど。
「なんで、ここにいるの?」
「そんなのに会いに来たからに決まってるだろ?」
 真実を口にする。
「そっか。そうだよね。ここ、私のアパートの前だもんね」
 一人、納得したようだ。
「でも、来るなら連絡くれれば良かったのに。私がいなかったらどうするつもりだったの?」
「連絡って、お前なぁ」
 思わず、ため息をもらしてしまった。
「携帯にかければいいじゃない」
 平然と言いやがるし。
「したって、電話」
 もう、脱力。
「うそ?鳴らなかったケド…」
 が鞄をあさりはじめる。
 そりゃぁ、鳴らないでしょうとも。
「そういうセリフは、ちゃんと電源入れてる人間が言ってね?」
 丁度が携帯を取り出した。
「あ、あれ??」
 携帯を見て焦ってる。
「昨日からずっとなんだけど」
「え!?嘘!?あ、映画館に行ってから切ったままだったのかも?」
 …普通、気づくだろ。
「ま、そんなことだろうと思ったよ」
 だしな。
 そういう所も可愛いと思えてしまうのは惚れた弱みってやつなのだろうか。
「あはははは。えと、ま、会えたから結果オーライってコトで」
 が笑って誤魔化そうとしてるし。
 ま、これ以上言っても仕方ないから言わないけど。
「そうだ。で、結局まーくんは何で私に会いに来たの?」
「あぁ。イチゴ。入荷したから持ってきた」
 手に持っていたビニールをの前にかざす。
「ホント!?」
「あぁ」
 いきなりすっげー嬉しそうな顔になってるし。
 この顔が見たかったんだよ。
 なんか、マジ気分いい。
「じゃぁ、こんな所にいないでさっさと私の部屋に行こう!食べよう!」
 が俺の腕を引っ張る。
 腕、握られただけなのに、触れられたところがが凄く熱かった。

 は、イチゴが大好きだ。
 俺の実家は八百屋だから、当然イチゴも売ってる。
 この前会ったとき、うちにすっげー美味しいイチゴがたまに入るんだって言ったら目を輝かせてた。
 だから、持ってきてやった。
 愛しいちゃんの喜ぶ顔、見たいしね。
 は鼻歌を歌いながら洗った苺を皿に載せて運んできた。
「食べようよ♪」
 満面の笑みで言う。
「そうだな」
 俺も微笑み返す。
「じゃぁ、いただきます」
 がイチゴを口に運ぶ。
 なんだか、たったそれだけの行為がいやにセクシーに思えてしまった。
 …俺って、重症?
「ん~っ!おいしー!!!!」
 すっごく嬉しそうに、が叫ぶ。
「な?うまいだろ?」
 が喜ぶ姿を見て、俺も嬉しくなる。
「もーっ!!まーくん、本当にありがとvv大好き!」
 最後の一言が、効いた。
 友達か、兄貴として好きだって言われてるのは分かってるけど、心臓がうるさい。
「そういえば、まーくんが一人でココにくるのって、はじめてだよね?」
「あ、うん」
 そう。だから、ココに来るのも戸惑った。
 部屋に入ってからは、心拍数いつもより絶対上だと思う。
 好きな女の子の部屋に一人で来るなんて…。
「いつも遊ぶときは他のメンバーと一緒だもんね~」
「そうだな」
 不本意ながら。
 はカミセンの方が歳が近いから、あんまり俺に構ってくれない。
 …嫉妬?
 情けないな、俺。
「たまにはいいね。まーくんと二人っきりって」
 ドキっとすることを平気で言うんだよね、は。
「そう?それは良かった」
 笑顔で返す。
 たまには、じゃなくて、二人きりの時間、もっともっと欲しいけどね、俺は。
 イチゴを一個一個ゆっくり食べる
「ね、まーくんは食べないの?」
「ん?あ、いいよ。おれは。実家に帰ればあるんだし」
 イチゴを食べるに見惚れてた。
 自分がイチゴ食べるより、苺を食べてるを見てる方がいい。
「そっか。八百屋さんだもんね」
「おう」
 適当に返事をしておく。
「ねーね、まーくん。せっかくだから、の話聞いてくれる?」
「あぁ、いいよ」
 の話なら何でも聞くって。
「あのね、まーくんには、好きな人って、いる?」
「え…?」
 一気に血の気が引いた。
「最近ね、気になる人がいるの」
「へ、へぇ」
 マジかよ…。
 嘘だろ。
「だけどね、なんていうか、ソレが恋愛感情なのかいまいち分からなくて」
「でも、気になるんだろ?」
 俺、自分の首を絞めてる?
「うん」
 が顔を赤くした。
 絶望的だ。
「惚れてんだろ?そいつに」
「そうなの、かな」
 完全に、の態度が恋してる女にしか見えなくなった。
「惚れてんだよ。そいつに」
 もう、ここにいたくなかった。
 俺、失恋?
「そうなのかもしれない」
「さっさと告白しろよ。なら絶対大丈夫だから」
 心にもない、だけど、本当のことを口にする。
「まーくん?どうしたの?」
 の瞳が俺を不思議そうに見た。
「用事思い出したから、帰るわ」
 我慢の限界だ。
「え?」
 きっと、は俺の態度が突然変わって混乱してるんだろうな。
 だけど、俺、無理だよ。
 平静を保っていられない。
 今の俺、何するか分かんない。
「うまくいくといいな」
 背中を向けたまま言う。
 そんなこと、少しも思っちゃいないけど。
「まーくん?ねぇ、どうしたの?怒ってる?」
 が俺の腕を掴んだ。
 ヤバイ。
 もう、俺、ダメだ。
 の腕を、ふりほどいた。
 これ以上は、耐えられない。
「まーくん?」
 振り返ると、が涙目になっていた。
 俺の中で、何かがキレた。

 甘くて酸っぱい味がした。

「あ、ごめん」
 訳分からないまま謝って、俺は逃げた。
 走った。
 何やってんだ、俺。
 最低だ。
 は好きな男がいるっていうのに。
 嫉妬して、それだけで。
 キスなんて。
 ごめん。
 、ごめん。
 謝って済む問題じゃないけど。
 車に乗り込んで、鍵を差し込んだ。
 脱力。
 ハンドルに頭をぶつける。
「何やってんだよ、俺はっ」
 泣きたい気分。
 自己嫌悪。
 携帯が鳴る。
 ポケットから取り出す。
 …からだ。
 一気に、緊張する。
「はい」
 口の中が、渇く。
「まーくん?」
「あぁ」
「さっきの、何?」
 の言葉に、感情がない。
「ごめんっ」
 俺には、それしか言えなくて。
「なんで、あんなこと…キスなんてしたの?」
 言葉に詰まる。
が…。のことが、好き、だから」
 言った。
 沈黙。
 俺は、何も言えない。
 の次の言葉を待つ。
 もう、心臓が止まりそうなくらいの感覚で。
 どんなにに罵倒されても、仕方ない。
 俺、それだけのこと、したし。
「嘘でしょ?」
 やっと返ってきた言葉。
 そうだよな。
 のこと、本当に大切に考えてたら、あんなことするはずないよな。
 信じられるはず、ないよな。
「嘘じゃ、ない。なんか、の話聞いてたら、嫉妬しちゃって、カッとなって、自分でも訳分かんなくなって、あんなこと…」
 自分の存在を消したいと思った。
「本気で、言ってる?」
「あぁ」
 言い訳なんて、出来ない。
「ホントに、私のこと、好き?」
「好き、だよ…?」
 あ…れ?
 何か、会話の流れがおかしくないか?
「まーくん、あのね。私、ずっと、ずっとね、気になってたの」
「…え?」
 何が…?
「まーくんのこと、凄く、気になってて、それが、どんな気持ちなのか、自分で分からなくて」
 もしかして。
「さっきね、まーくんにキスされたとき、ビックリして。すごく、ビックリした」
 もしかして、は…。
 俺のこと…。
「ビックリしたけど、全然、嫌じゃなかったの」
「…?」
「…好き。私も、まーくんのこと、好きだよ」
 時間が、止まった。
 もしかしたら、全部夢なんじゃないかって思った。
 息をすることすら忘れて。
「私、まーくんが好き」
「本当に…?」
 声が、震えた。
 の言葉に全身が熱くなる。
 夢みたいな現実に、目頭が熱くなる。
、好きだよ。大好き。愛してる」


 ずっと、思い続けていた彼女と、両想いになれた。
 初めてのキスは、イチゴの味だった。



あとがき
なんだか無性に苺が食べたくなって思いついた話です。
苺味のキスって、いいなぁとか訳の分からないことを…。
気にしないで下せぇ。(汗)