笑顔
あの日、君は笑ってた。
「博、スキだよ」
は仕事へ出かける俺に笑顔をくれる。
これが日課。
俺は、この笑顔を見るだけで元気になれる。
仕事の間、
と離れているのは寂しいけれど、家に帰れば
がいるから。
そう思うだけで頑張れる。強くなれる。
を愛してる。
けれど、君はもういない。
はもうこの世にいない。
もう一度でいいから、あの笑顔が見たい。
せめて、「さよなら」を言いたい。
突然、君は消えてしまったから。
俺が家に帰ったとき、
にいて欲しかった。
俺の我が儘で
と一緒に住むようになった。
いつでも
の笑顔を見ていたかった。
ずっと一緒にいたかった。
「愛してるよ」
俺の気持ちはどれくらい君に届いたんだろう。
他にこの気持ちを伝える言葉を知らないから。
言葉じゃ足りないんだ。
どうやって君に伝えればいい?
今は、伝えることさえかなわないのだから。
あの日、いつものように俺は仕事へ向かった。
「いってらっしゃい」
はいつものように笑って言った。
「いってきます」
俺はいつものように幸せな気分で言った。
「今日は久しぶりにデートできるんでしょ?」
「うんv」
「うれしい」
の嬉しそうな笑顔。
俺の見た最後の笑顔。
「じゃぁ、20時にいつもの喫茶店で会おうね」
俺と
の最後の約束。
「博、愛してるvvv」
俺が最後に聞いた
の言葉。
俺と
の最後のキス。
軽いキス。
唇が触れるだけのキス。
お別れのキス。
俺は家から出た。
から離れた。
もう、二度と
と会うことはない。
あれから一度も家に帰ってこない。
帰れない。
あそこには
の思い出が詰まっているから。
思い出してしまうから。
現実が俺を引き裂くから。
仕事をすることで自分を保ってる俺にヒマを与えないでくれ。
優しくしないでくれ。
本当は、生きていることすら苦痛でしかないのに。
俺が思っていた以上に
は俺の中で大きな存在だった。
俺の全てだった。
自分自身をなくした俺は、これからどうやって生きていけばいいのだろう。
気を紛らわせたからといってこの虚しさと寂しさは消えたりしない。
。
名前を呼んでも返事はない。
分かってる。
分かってるんだけど、君の名前を呼ぶ。
心の中で呼ぶ。
声に出す勇気はない。
声に出せば君がここにいない事がリアルな現実になってしまうから。
夢だと思いたいんだ。
目が覚めたら君が隣にいてくれたらいいのに。
目を閉じれば君の最後の笑顔が見える。
優しい笑顔が見えるんだ。
もう、君はいないのに。
『博』
の声がきこえた気がした。
いるはずがない。
けれど、目が
をさがす。
『博』
また、聞こえた。
だ。
の声だ。
幻聴でもかまわない。
の声がするんだ。
俺は
の声に導かれて自分の家に帰った。
の部屋にたどり着く。
俺はその部屋の扉を開いた。
がいた。
いや、そこには何もない。
誰もいない。
けれど、俺には
の存在を感じることが出来た。
「
?」
名前を呼んでみる。
『博』
暖かい空気。
が微笑んだときに流れる空気。
「
…ここにいたの?」
『うん』
「ずっと会いたかったんだ」
『うん』
「もう、帰ってこないんだよね?」
『うん』
「今までありがとう」
『うん』
俺の目から涙がこぼれていることに気づいた。
「あ…れ?」
『博』
「うん?」
『愛してるよ』
「俺も…」
『博は一人じゃないよ?』
「え?」
『みんながいるんだよ?』
「…うん」
『私、幸せだったよ』
「そう?」
『博、私はもう行かなきゃ』
「嫌だよ」
『博は大丈夫だよ。みんなに愛されているから』
「でもっ」
『いつか、博が心から愛する人が現れたら、私に遠慮なんてしないでね?』
「何言ってるの…?」
『博は幸せでいてね。それが私の願いだよ』
「…
?」
『バイバイ。生きて幸せになってね』
突然、部屋の空気が変わった。
「
!?」
消えてしまった。
一人になってしまった。
もう
はいない。
きっと、二度と戻ってこない。
生きて幸せになる?
がいないのに?
どうやって?
「博!!」
…岡田?
「しっかりせぇ、博!」
「…何で岡田がいるの?」
「なに言うてんねん!博が突然スタジオから消えたんやろ!?みんな心配してさがしとったんやで!!」
「そう…なの?覚えてないや」
に呼ばれてここに来た。
そして、
に会った。
俺、その前どこにいた?
スタジオにいたのか…?
スタジオ…?
「…仕事、大丈夫?」
「なんでそうなるねん…」
岡田が脱力したのがわかる。
「でも、仕事…」
「気にせんでええって」
「何で?」
「今日のは全部別の日に移したから」
「何で?」
「博が消えたからやろ?」
「そうなんだ?ごめんね」
「ええって。それより、みんなに連絡せな」
岡田が携帯でメールを打つ。
何で、岡田はこんなに必死なんだ?
どうして?
「長野!」
「あ、坂本くん…」
ドアを乱暴に開けて坂本くんが家に入ってきた。
「お前、大丈夫か?」
「何が?」
「あんまり大丈夫じゃなさそうやねん」
だから、何が?
「…そうだな」
坂本くんが俺と目を合わせる。
「何かあったのか?」
優しい目だ。
その目に吸い込まれていきそう。
無意識のうちに、口から言葉が漏れていた。
「
に会ったよ」
「…そうか。
ちゃん、何か言ってたか?」
「俺にはみんながいるから、生きて幸せになれって」
確かにそう言ってた。
「でも、無理なんじゃないかなぁ。俺、一人になっちゃったし。幸せになんてなれないよ」
「馬鹿野郎!!みんないるだろ?俺も、岡田も、井ノ原も、剛も、健も、ファンの子たちだって!みんなお前を必要としてるんだぞ?一人なわけないだろう!?」
そうかな?
本当に俺、必要とされてるのかな?
いくらでも代わりがいるんじゃないかな?
「長野くん!!長野くんは!?」
健が息を切らせて家に入ってきた。
「健くん、こっちや」
岡田が健を呼ぶ。
「良かったぁ。長野くん見つかって」
笑顔で健が言う。
何が嬉しいんだろう?
「剛?」
健の後ろから剛が現れた。
「ざけんなよ」
いきなり剛に睨まれた。
何で?
でも、その目は悲しそう。
分かんないよ。
剛は何を怒っているの?
何を悲しんでいるの?
俺にはもう…
あの日、20時に
は喫茶店に現れなかった。
こなかった。
これなかった。
こようとしていた。
交通事故。
デートへ行く途中のの事故死。
ドラマや小説ではよくある話。
現実に起きるなんて思ってなかった。
君がいなくなるなんて思ってなかった。
人が死ぬのがこんなにあっけない事だったなんて。
昨日まで当たり前に存在していたものがなくなる。
突然いなくなる。
それでも時間は過ぎていく。
俺は前にも後ろにも行けない。
君がいなきゃなにも出来ない。
信じたくない。
信じられない。
なくならない、消えない、残酷な現実。
「長野くん!!」
ん?誰?
「しっかりしてよ!長野くん!!」
井ノ原?
「おい、大丈夫か?」
坂本くん?
あれ?身体が動かない。
声が出ない。
目は開いてるんだけどなぁ。
「取り敢えず、ゆっくり休め。どうせろくに寝てないんだろ?」
うん。
「大丈夫。次にお前が目覚めたとき、絶対一人じゃないから。安心しろ」
うん。
「おやすみ、長野」
うん。
おやすみ、坂本くん。
目の前に
がいる。
「博、愛してるよ」
うん。俺も。
「博は一人じゃないからね?」
がいるもんね。
「私はもう存在してないんだってば」
…そうだよね。
「私は博の心の中にいるからね」
心の中に?
「でも、私に縛られないでね?」
どういうこと?
「さっき言ったでしょ?それに、みんながいるんだからね?」
でも、
がいないんじゃ同じだよ。
「バカ」
え?
「もう、博がそんなだからハバイバイ言ったのにまた会いに来なきゃいけなくなっちゃったんだからね?」
どうしてそんな優しい顔するの?
「今度こそ本当にバイバイだよ」
行かないでよ。
「あ、それから。私、博の笑顔大好きだよ」
うん。ありがとう。
俺も、
の笑顔大好きだよ。
「おはよう、長野くん」
目を開くと健の微笑みがあった。
「おはよ…」
そっか、俺、眠ってたんだっけ?
「長野くんは一人じゃないよ?俺、長野くんの仲間だからね?側にいるからね?」
健?
「みんなを呼んでくるから。ちょっと待っててね」
「うん」
健が部屋を出ていく。
…ここは俺の部屋か。
自分のベッドで寝たのはすごく久しぶりな気がする。
こんなに安心できる場所だったんだ…。
なんとなくだけど、
の言ったこと、分かってきたかもしれない。
を愛してる。
でも、その思いにすがってちゃダメなんだよね?
前を向いて生きていかなきゃいけないんだよね?
「みんな連れてきたよ」
健が帰ってきた。
「長野くん、具合はどう?」
「大丈夫なんか?博」
「長野、少しは休めたか?」
「無茶しすぎなんだよ!長野くんは!!俺見た途端倒れるからマジでビビったんだかんな!?」
みんなが順に言う。
「ごめんね、心配かけて。もう、大丈夫だから」
俺は微笑む。
ねぇ、
。
俺は今、君の好きな笑顔でいられてる?
あとがき
立花ひよこさんへの「お絵かき掲示板への落書き一号ありがとう」小説です。
遅くなりました!そして、謎です!全然リクに則してない気がします…。ごめんなさい。
ダラダラ長いだけみたい…。