真理



『ある日、ある時、その人に出会ってしまう』
 私の心に残っている言葉。
 哲学の講義で先生が言っていた言葉。

『真理には客観的・科学的なものと、人格的・宗教的なものの2種類がある。
 現代では前者の客観的・科学的真理だけを求めがちだが、どちらが正しいとかいうことはない。
 人は客観的・科学的真理だけでは生きていけない。
 例えば、地球上には何十億という人間がいて、その半分が男で残りの半分は女だ。
 もし、客観的・科学的真理だけで恋人を選ぶなら、異性に明確なランクをつけることになる。
 1番目、2番目…1億番目。2億番目…最下位になったら悲惨だな。
 しかし、実際にはどうだろう?
 そんなことは決してない。
 人格的・宗教的真理も絡んでくる。
 人格的・宗教的出会いを一言で表すと「出会い」だ。
 恋というのは、ある日、ある時、その人に出会ってしまうことから始まる。
 相手が客観的・科学的真理においてはランクが低くても、恋をしてしまったらその相手以外考えられなくなったりもする。
 この場合、客観的・科学的真理よりも、人格的・宗教的真理が優先されていると言えるだろう』

 なぜだろう。
 そう言った先生の視線が私の方に向いていたのは。
 なぜだろう。
 苦手な哲学の講義だったのに、この時のことだけ覚えているのは。
 なぜだろう。
 あれからずっと先生のことが気になるのは。
 なぜだろう。
 気が付いたら目が先生を追っているのは。
 もしかしたら、私は、あの日、あのとき、あの人に出会ってしまったのかもしれない。

~!さっき長野先生と会ったんだけど、放課後でいいから研究室に来てって言ってたよ~」
「え?ホント?ありがと」
、何か呼び出されるようなことしたの~?」
 友人が冗談を言う。
 でも、これは笑えない冗談かもしれない。
 私は、自分の思いを長野先生に言ってしまった。

 不安を抱きながら研究室の扉を叩く。
 返事はないが、鍵は開いている。
「失礼します」
 長野先生は机に向かったまま。
 仕事をしていて私がいることに気づかない長野先生に声をかける。
「…長野先生」
「あ、ごめん。来てたんだ。仕事してたから気づかなかった。ホント、ごめんね?」
 そう言ってにっこり笑ってくれる。
 生徒にとっても人気のある先生。
「あの、何かご用でしょうか…」
 用なんて、白々しく言ってる自分が醜く思える。
「うん。ちょっと、時間あるかな?話したいことがあるんだ」
 長野先生の笑顔は変わらない。
「はい」
 自分の顔が強ばっているのがわかる。
「座りなよ」
 長野先生は入り口に立ったままの私に微笑む。
 私は長野先生の横のイスに座る。
「そんなに恐がらないで?俺は君の気持ちを誰かに話す気もないし、拒絶もしないから」
「え?」
「生徒だから教師に恋しちゃいけない。人を好きになるって、そんなに単純な事じゃないよね?」
 窓から差し込む夕日に照らされた長野先生が天使に見えた。
「俺はイケナイコトだと思ってないよ。人との出会いは計画的なものじゃないんだから。いつ、どこで、誰と出会うか分からないし。その人がどんな人であったとしても、もし、好きになってしまったら、それは仕方のない事だと思うんだ。例えば、生徒が教師に恋しちゃうこともね?」
 なんだか胸につかえていたものが取れたような気がする。
「ありがとうございます」
「これだけは言っておきたかったんだ。昨日、君、言うだけ言って逃げちゃうんだもん。まぁ。逃げたい気持ちも分かんなくもないんだけど(笑)」
 うう…恥ずかしい////////
「でも、なんだか、長野先生の言ってること、坂本先生みたい…」
「あはは。ばれちゃった?俺の話、坂本先生の受け売りvv」
「へ!?」
「やっぱり分かっちゃうんだね、坂本先生のことは。愛のパワーってヤツですか??(笑)」
 な、長野先生!?(汗)
「あ、ごめん、ごめん。教師がこんなにフザケてたらダメだよね~。まぁ、とにかく!俺は君の恋を応援するからね。本当は担任がこういうこと言っちゃいけないのかもしれないけど。頑張ってね?」
「はい!!」
 あ、元気良く返事しちゃったよ、私。
「俺が味方についたんだから安心してね。坂本君のことは、この学校にいる誰よりも知ってるから♪」
 楽しそうに長野先生が言う。
 …あれ?
 今、「坂本君」って言った????
「あんまり知ってる人いないけど、俺、坂本君とは中学生の時から友達なんだよvv」
 そう、そうなの…?
 全然知らなかった。
 っていうか、逆に仲が悪いのかなって思ってたし。
「あ、もしかして、坂本先生が長野先生のことだけ呼び捨てなのって…」
「あー、あれね。昔から俺のこと「長野」って呼び捨てだったせいで「長野先生」って言うのに抵抗あるらしいよ?俺のが1年後輩だしね」
「それ、無理にでも「長野先生」って呼んだ方がいいんじゃないでしょうか…」
「あー、みんな誤解して、俺と坂本君、相当仲が悪いと思ってるんでしょ?」
「…そうです」
 私もそう思ってました。(苦笑)
「坂本君、それでも言いたくないらしいよ?まぁ、俺は面白いからどっちでもいいんだけどね~☆」
 お、おもしろい!?
「そういえば…俺に坂本君のこと言ったの、後悔してる?もし、後悔してるんだったら忘れるよ?正確には忘れたフリだけど」
「いえ!後悔なんてしてません。むしろ、力強い味方が出来て嬉しいです!」
「そっかー。俺、何か隠し事してる人見ると、つい誘導尋問しちゃうんだよねー。しかも100%ゲロさせる自信あるし。でも俺、秘密は守る主義だから安心してねv」
 はい?
「いやぁ、良かった、良かった」
 つまり、私は、長野先生の魔力(?)によって、坂本先生への思いを白状してしまったということですか…?
 もしかして、私って被害者!?
「あ、その顔は何か思ってるでしょ!?」
 長野先生って…長野先生って…。
「悪魔。俺ね、友達から「白い悪魔」って言われてるの。何でだろうね?」
 …白い悪魔、ね。
「言い得て妙だと思います」
「えー?君までそんなこと言うのぉ?ヒドイなぁ」
 長野先生が笑う。
 私も笑う。
「明日から、お昼ご飯は屋上で一緒に食べようねvv」
 唐突に長野先生が言う。
「な、何でですか?」
「ん?作戦会議?それから、運が良ければ坂本先生も出現するよ?」
「え!?ホント!?」
「うん。本当♪」
 本当に長野先生と坂本先生って仲がいいんだ!?
 って、アレ?
「屋上って立入禁止なんじゃ…??」
「そうだよ」
 長野先生…。あっさり答えてますけど…。
「大丈夫!俺と坂本君以外は入ってこないから」
「いや、そうじゃなくて…」
「入り口は坂本君の研究室の横の倉庫ね。あそこ扉付いてるケド、実は中は屋上へと続いている階段に資料が積んであるだけなんだよ」
 知らなかった。
「そこから上がってくればいいからね」
「そーいう問題ではないと思うんですけど…」
「気にしない、気にしない」
 長野先生になんだか分からないまま下校を促され、帰路についた。
 …狐にでも化かされた気分。

 昼休み。
 弁当を持って坂本先生の研究室の方へ向かう。
 坂本先生の研究室は最上階で、ほかの部屋は殆ど使われていないから、人気はない。
 …はぁ、誰かに見られる心配はしなくてよさそう。
 長野先生と二人キリで食事したなんて分かったら後が怖いし。
 でも、長野先生のファンの人達、本性知らないんだろうなぁ。(遠い目)
 倉庫の戸に手をかける。
 …鍵は開いている。
 長野先生本当にいるのかなぁ?
 段々と積み重なっている資料の脇を抜けて屋上に出る。
「長野先生~?」
 ただっ広くて、特に何もない屋上。
 呼んでみても長野先生の姿は見えない。
 いないのかな?
 昨日の一言は冗談だったとか?
「どうしよう…」
 お昼に誘ってくれた友達断ってここに来たのに…。
 今更「一緒に食べよう」なんて言えるわけないし。
 今日は寂しくここで食べるしかないかな。
 階段の下の方から物音がした。
 長野先生来たのかな?
「長野ー。いるかー?」
 …長野先生じゃない。
 長野先生を呼んでる?
 しかも呼び捨て?
 っていうか、私が好きな人の声だし。
 坂本先生だよ!!
 どうしよう。
 この場所って坂本先生と長野先生しか来ないんだよね?
 生徒の私がここにいるって分かったらどうなるんだろう…?
 でも、足音は確実に近づいてきて…。
 取り敢えず死角に逃げよう。
「なんだよ。長野いねーのかよ」
 どうやら屋上に上がってきたらしい坂本先生の声がする。
 うー!!
 坂本先生が近くにいるのに声がかけられないどころか、姿も見れないなんて…。(悲)
 向こうから見えないってことは、こっちからも見えないってことで…。
「どっかに隠れてんじゃないだろーな」
 ギク。
 隠れてるのは長野先生じゃなくて私ですーっっっ!!(汗)
 お願い探さないでーっっ!!!
 足音と気配が近づいてくる
 もう終わりだぁぁぁぁ。
「え?」
 坂本先生は私を見つけた瞬間に固まってしまった。
 …私もだけど。
「な、なんでここにいるんだ?」
 やっとの事で私に尋ねる。
 ここはやっぱり、正直に答える方がいいよね?
「あの、長野先生に呼び出されて…」
 ソレを聞いた坂本先生は息を吐きながらしゃがみ込んだ。
 …脱力???
「坂本先生?」
「くそっ!長野め」
 坂本先生が毒づく。
 こいいう姿初めて見た。 
 なんだかとても31歳には見えないくらいカワイイのですが…。
「…長野に俺のこと、何か言われなかった?」
 ヘタレたままの坂本先生が上目遣いに私を見ていう。
 まぶしすぎますっっ!!!
「いえ、別に何も…」
 思わず目をそらしてしまいました。(照)
「ホント?」
「本当です」
「じゃぁ、何で目をそらすの?」
 それはアナタがまぶしすぎるからです!!
 でも、そんなこと言えないし…。
「長野に何か言われたんだろ?」
 恨めしそうに睨むのやめて下さい!!
 可愛すぎてクラクラします!!
 なんとか誤魔化さないと…。
「坂本先生と長野先生が昔から仲がいいってことなら…」
「…それだけ?」
 これ以上坂本先生に見つめられると自我が保てなくなりそうだから、納得してもらえるように目を見て答える。
「はい」
「よかったー」
 息をつく坂本先生。
 どうやら納得してくれたらしい。
 でも、何がよかったんだろう?
 長野先生に何か人に知られたくない弱みを握られてるのかなぁ?
 …あり得る。
「ところで、一体何で呼び出されたの?」
 …う。
 坂本先生とラブラブになる作戦をたてる為だなんて言えない。
「昨日、ちょっと長野先生に相談してたんですけど、時間が遅かったので話の続きをなぜかご飯を食べながらという事になって…」
「相談?進路とか?」
 …いえ、あなたの事です。
「まぁ、そんなところです」
 曖昧に答えておこう。
 正直に言うことなんてできないし。
「…ハメられた」
 坂本先生が呟いた。
 ハメられた?
 誰に?何で?
「長野のヤツ、変なお節介やきやがって!」
 言い捨てると突然立ち上がって私を見た。
 なんだか少し、坂本先生の顔が赤い気がする。
「聞き流してくれていいから、俺の話、聞いてくれる?」
 坂本先生の真剣な表情に私は頷く。
「好きだ」
 …え?
 今、何て?
「ずっと前から気になってたんだ。気になり始めたら気持ちがもう、止まらなくなってた。常識で考えれば教師と生徒なんてあり得ない。しかも、俺は31で、君とは10は歳が離れてる。でも、出会ってしまった。ずっと、この気持ちをどうしていいか分からなかったけど、せめて、伝えられたらって思ったんだ」
 本当?
 ねぇ、これは本当なの?
 夢じゃないな?
 現実なの?
「驚いてるみたいだね。ま、当然か。返事、しなくていいよ。虚しくなるからさ」
 悲しい笑顔を残して坂本先生は去っていく。
「待って」
 やっと口から出た声は小さすぎて、坂本先生に届かない。
「待って!!」
 坂本先生の足が止まった。
 私を見て驚く。
「泣いてるの?」
 言われて初めて気づく。
 でも、そんなの、どうでもいいことで。
 早く気持ちを伝えなきゃ。
「私も、好き」
 もう、何がなんだか分からなくて、思いつく言葉を口にしているだけ。
「言い逃げなんて酷いよ。私、坂本先生のことが好きだもん。私だって好きだもん。私、嬉しいのに。嬉しいんだよ?なのに、何で行っちゃうの?何で?好きだもん。好きなのに…」
 坂本先生が、私を抱きしめてくれた。
「嘘じゃないよな?夢じゃないよな?」
「坂本先生ぇ…」
 坂本先生の胸の中で泣く。
 そこは、暖かくて、優しくて。
「俺と、付き合ってくれる?」
 頭の上から降ってくる声に頷く。
「教師と生徒って事で、いろいろ嫌な思いさせるかもしれない。それでもいい?」
 もう一度頷く。
 顔を上げると、優しい微笑みがあった。
 きっと、私の顔はもう涙でぐしゃぐしゃになってるのに、優しく微笑んでくれる。
「本当に私でいいの?」
 震える声で訊ねる。
 坂本先生は答える変わりにキスをくれた。
「ねぇ、って呼んでいい?」
「うん」
「俺のこと、昌行って呼んでくれる?」
「ま…さゆき?」
 坂本先生は嬉しそうに笑う。
「ありがとう、vv」
 目線があって、どちらともなくキスを交わす。
 嬉しくて。
 嬉しくて。
「昌行、大好き」
、愛してるよ」

「いやぁ、良かった良かった」
 拍手をしながら長野先生が現れた。
「長野、ハメやがったな!?つーか、どうせはじめから全部聞いてたんだろ!?」
 坂本先生が怒鳴る。
 …さっきは勢いで言ったけど、恥ずかしくて名前なんて呼べないよ/////
 しかし、さっきまでのムードはどこへ消えたのやら。(笑)
「さあ?何のこと~♪」
 長野先生はとぼける。
「良かったね」
 そう言って、長野先生は微笑んで、私にハンカチを貸してくれた。
「ありがとうございます」
 涙をハンカチで拭う。
「両想いなのに、結ばれないなんて悲劇は必要ないでしょ?」
 長野先生はさわやかに笑う。
 私はこの笑顔がクセモノであることを昨日知った。
 長年のつきあいの坂本先生がその意味に気づかないはずがなくて。
「知ってたのかよ…」
 坂本先生は呆れてるみたい。
「だって、二人とも俺に相談してくれるんだもん。キューピットになるしかないじゃん?」
 やっぱり。
「相談?お前が言わせたんだろ?俺の場合」
 …私もかも。
「何のこと?」
 あくまでとぼけるんですね、長野先生。
「…屋上でメシ食おうって言うから、来たらいねーし。その代わりにが長野に呼び出されたって、一人でいるんだぜ?すぐにお前の考えていることが分かったよ」
 坂本先生は苦笑している。
「どっきり告白大作戦(仮)大成功?」
 長野先生、楽しそう。
「長野先生!心臓に悪いですよ!!長野先生待ってたら坂本先生来ちゃうんだもん!!」
!「坂本先生」じゃなくて「昌行」って呼んでくれる?」
「坂本君、ワガママだよ。いきなり名前で呼べる様になるわけないじゃん。ねぇ、ちゃん?」
「は、はい」
 坂本先生の名前、恥ずかしくて呼べませんっ////////
「ちょっと待て!何で長野が「ちゃん」って呼ぶんだよ!?お前、の担任なだけだろ!?」
「だって、親友の彼女でしょ?ちゃんは」
 親友の彼女?
 坂本先生の彼女!
 やだ!顔が熱くなってきちゃった///
「学校で絶対「ちゃん」って呼ぶな!!変な誤解されるだろ!」
「ふーん。じゃぁ、学校じゃなければいいんだね」
「へ?いや…」
 あ、坂本先生が長野先生が言いくるめられてる…。
 これじゃどっちが年上なんだか分からないよ。
「それに、坂本君が学校で「」って呼ぶのは良いの?」
 あ…。
「二人の仲を公表するのなら、それなりの覚悟はしないといけないよ?」
「…ああ、分かってる」
 なんか、いきなりシリアスな話になっちゃった。
 でも、考えなきゃ、決めなきゃいけないことだよね。
「どうするの?坂本君」
「…」
 坂本先生は考え込んでいるみたい。
 何故か、私たち3人は誰も言葉を口にしなくて、沈黙が続く。
 その緊張を壊したのは私。
「私は、隠しておいた方が良いと思う…」
!?」
 坂本先生は目を丸くする。
「だって、きっと、私たちのこと公表したら、坂本先生に非難が集中するでしょ?私、そんなの嫌だもん。見たくないもん。辛いもん」
「…
「イイコだね。ちゃんは」
 2人が優しく微笑んでくれる。
「取り敢えず、2人の関係は俺たち3人の秘密だね☆」
「そう…ですね」
「ああ」
 3人で笑い合う。

 あの日、あの時、私は坂本先生に出会って、恋をした。
 そして今、長野先生のおかげで、恋人同士になれた。
 ありがとう、長野先生。
 幸せになろうね、坂本先生。
 …それから。
 それから。
 愛してるよ、昌行。



あとがき
みほりんさんへの1111人目ありがとう小説です。
頂いたリク内容と予告通り(?)異なってます。(死)
見事にまーくんメインなのに博ばっかり出てきてます♪
パラレルってむずかしいですね~。
っていうか、まーくんが哲学って似合ってるのか似合ってないのか…。微妙。
ところで、長野先生は何を教えてるのでしょうね?←考えてない