勇気
貴方のその笑顔が私に勇気をくれるから。
「ウザイ」
「消えて」
「邪魔なんだけど」
「何で来たの?」
「死んじゃえばいいのに」
「いつまで生きてんの?」
言葉の暴力。
世間で言う「いじめ」ってやつ。
世の中の何処にでもあるらしい。
私もその当事者ってやつで。
しかも、いじめられる側。
もう、抵抗する気力もなくて耳障りな言葉を聞き流してる。
いいかげん、慣れた。
けど、やっぱり慣れない。
ソレを耳にすることで動じることはなくなった。
それでも、心に傷が付くのは変わらない。
私の心はいい加減限界が近くなってると思う。
だからって、この事を相談する相手もない。
友達なんていない。
先生なんて信用できない。
家族には心配かけたくない。
一人。
私はひとりぼっち。
そろそろ死のうかな。
また、くだらないこと考えてる。
泣く。
そうすることで傷が塞がるわけではないけど。
少しは安らぐから。
私はいつも、この人気のない公園のベンチで泣く。
指定席。
唯一泣ける場所。
家で泣くと家族が心配するから。
誰かに見つかるわけにはいかないから。
たまに、散歩してる人が通るだけ。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
泣いて。
こうすることに意味が有るとも思えないけど。
こうでもしないと自分が壊れてしまいそうで。
いつの間にか、ベンチに誰かが座っていた。
私と距離を置いて。
いつからいたんだろう?
全然気付かなかった。
私がその人に視線を向けると、どこかに歩いていった。
何だったんだろう。
男の人だった。
パンツにTシャツ、スニーカーにキャップ。
スゴク普通な格好の人。
だけど、何故かその姿が普通に思えなかった。
妙に綺麗に感じた。
そんなことを考えている内に涙が止まっていた。
なんだか、不思議な気分だった。
よく分からないけど、可笑しかった。
「飲む?」
目の前にお茶が差し出された。
さっきベンチを立った人だった。
「ありがとうございます…」
よく分からないけど、私はソレを受け取った。
「ごめんね。何が飲めるのか分からなかったからお茶にしたんだけど」
そう言った男の人もお茶を手にしていた。
沈黙。
緊張…してるかも、私。
「あのさっ」
先に口を開いたのは男の人だった。
「よく、ここにいるよね?」
「え…?」
確かに、最近ココに来る回数増えたかも知れないけど…。
「オレさ、時々この辺り歩いてるんだ。散歩してるんだよね」
「そう、ですか」
見られてたんだ…。
こんな、情けない姿。
何回も。
「ずっと、気になっててさ」
「でしょうね…」
見るたびに泣いてるんだから、気にならないはずがないよね。
「いや、そういう意味じゃなくて…あれ?そうなのかな?ええと…」
男の人は慌ててる。
「いいんですよ。私が貴方の立場だったらやっぱり気になって仕方ないと思いますし」
苦笑。
「え?あ…そう、かな?」
申し訳なさそうに言う。
深く被ったキャップのせいでイマイチ表情は読みとれない。
だけど、この人、悪い人じゃない。
何故かそう思う。
「何で、泣いてたの…?」
無言。
「ゴメン、やっぱり、聞いちゃいけないことだよね…」
なんでだろう。
この人、不思議。
「いじめって、知ってる?」
口が、勝手に動く。
「…いじめ?」
誰にも言ったこと無かったのに。
「そう、いじめ」
分からないけど。
言葉が出てくる。
「別に、何かされてるわけじゃないの。言葉の暴力…分かりにくいかな?」
「…分かるよ」
男の人は私の話を真剣に聞いてくれてる。
「学校に行くとね、「ウザイ」とか「死ね」とか言われちゃうの」
笑って言う。
「もういいよ。辛いでしょ?それを、言葉にするのは…」
「う…ん」
「言葉って、凶器になることもあるよね。オレ、分かるよ。凄く痛いよね。だけど、傷が残らないせいで分かってもらえなかったりして」
そう。
誰も気付いてくれない。
証拠も残らない。
傷も見えない。
「いつも、一人で耐えてるの?」
「家族には、言えないよ…」
「そっか」
「うん」
「…友達には?
「いないもん、友達」
「…え?」
「私と仲良くしてるといじめられちゃうから」
「…そんな」
少し、男の人は困惑しているみたいだった。
「だから、一人で泣いてたの」
私はお茶の缶を開け、一口飲んだ。
「はじめてなんだ。誰かに話したの」
「そう、なの?」
「そうなの」
驚いたように男の人は私を見てる。
「ありがとう。おかげで少し楽になったよ」
素直に、感謝する。
「ねぇ」
「なぁに?」
「また、ココで泣くの?」
「…」
「ごめんね。だけどさ、オレ…なんか、君を放っておけなくて」
そんなこと、言われても…。
「オレ、君の力になりたいんだ。オレは友達になれない?一人でココで泣くよりは、さ、いいと思うんだ」
「友達?」
「そう、友達」
この人が、友達。
悪くないかもしれない。
この人は優しい。
何故か、安心する。
だけど…。
「私、貴方の名前も知らない」
「え?あ、そうだよね」
男の人は立ち上がって、私の前に立った。
そして、深く被ったキャップを取った。
見たことある。
この人、見たことある。
知ってる。
嘘。
「長野博です」
そういって彼は右手を差し出した。
「…。私の名前は、です」
「ちゃんかぁ。ヨロシクね?」
「は、はい…」
信じられない。
長野博。
私だって知ってる。
アイドルじゃん。
V6じゃん。
私と友達になりたい?
どうなってるの?
「携帯、持ってる?」
「え?はい」
「番号とか、教えてもらってもいいかな?」
「あ、でも私、家に置いてきてて…。自分の番号、覚えてないし…」
誰にも見つかりたくないから、ココに来るときは持ってこない。
「なら、オレの番号とメールアドレス教えとくから、何かあったらいつでもかけてきていいよ。あんまり出られないかもしれないけど。メールは絶対返信するし」
苦笑をしながら長野君が言った。
「いいの?」
貴方はアイドルでしょ?
こんな簡単に教えて良いの?
名前しか知らないような私に。
「だって、友達でしょ?」
彼は笑顔で言う。
その笑顔はとても綺麗で。
「何でも言って?オレに出来ることならするし。寂しくなったときにかけてくれて構わないし。泣きたいときで構わない。用なんて無くてもいいから」
優しい。
長野君はとても優しい顔で言ってくれる。
「あ、書くものがないや」
間抜けな声。
思わず私は笑ってしまう。
「笑った顔、カワイイね」
長野君が突然言った。
自分の顔が赤くなったのが分かる。
「ちょっと待っててもらってもいい?」
彼は再びキャップを深く被った。
「はい」
彼が何をしたいのかよく分からなかったけど、待ってみようと思った。
長野君は公園の出口に向かって走っていった。
「ゴメン、待った?」
走ってきたせいで少し息を切らせて目の前にいる長野君が言った。
手にはコンビニの袋が握られている。
彼は袋からボールペンとメモ帳を取り出して、何か書き始めた。
「はい」
彼がメモ帳ごと私に渡す。
「何?」
「オレの携帯の番号とメールアドレス。受け取ってよ」
メモ帳を開くと、確かに携帯の番号とアドレスが書かれていた。
「本当に、もらっていいの?」
「何言ってんの?オレが渡したいんじゃん?友達になって欲しくて…。あ、もしかして迷惑だった…?」
「迷惑なはずないよ…」
涙がこぼれた。
「え?あ?ど、どうしたの?オレ何か悪いことした?」
長野君が動揺してる。
「違うの。嬉しいの」
こんなに誰かに優しくされたのは、どれくらいぶりなんだろう?
涙が溢れて止まらない。
だけど、さっきまで流していたような冷たい涙じゃなくて。
暖かい。
長野君の気持ちが。
「ちゃんは、一人じゃないからね」
長野君が私の頭に手を置いて言ってくれる。
「うん」
あれから、どれくらい経っただろう。
長野君と友達になって、随分経つ。
学校で嫌なことがあっても、生きていたいと思えるようになった。
彼の笑顔は、私に安らぎをくれた。
どんなに忙しくても、私が電話すると仕事の合間とかにかけ直してくれた。
メールは絶対に返信してくれた。
心のよりどころとでも言うのだろうか。
私が、素直でいられる場所。
「ちゃん、待った?」
待ち合わせの時間通りに長野君は現れた。
「さすが長野君、時間ピッタリだね」
「ありがと」
彼は笑う。
「一緒に遊ぶのなんて久しぶりだね」
「そうだね。オレの仕事忙しかったし」
「会えただけでも嬉しいよ!」
笑うことさえ忘れていた私。
だけど今、こうして笑っていられる。
長野君のおかげ。
生きることは辛い。
だけど、ソレが全てじゃない。
嬉しいことも、楽しいこともあるって、長野君が教えてくれた。
「食べに行きたいお店が有るんだけど、行ってもいい?」
少し遠慮がちに長野君が言う。
「うん。長野君と一緒ならどこでもいいよv」
「ちゃん、そのセリフ、彼女みたいじゃない?」
「あ、ゴメン…」
「嬉しいけどね」
「へ!?」
長野君の言葉に驚く。
「何でもないよ~」
おどける彼。
「ちょ、ちょっと!?長野君!?」
「早く車に乗って?行くよ?」
私は、生きていくよ。
死にたいって思うこと、たまにはあるけど。
長野君の笑顔を思い出すだけで生きる勇気が湧いて来るんだ。
ありがとう。
感謝しても、しつくせないくらい。
貴方のその笑顔が私に勇気をくれるから。
あとがき
みほりんさんへの「ゾロ目3333人目のニアピン3334人目ありがとう」小説です。
超遅くなってゴメンナサイ。リクを頂いたのはいつのことだったか…。
しかもリク内容うろ覚えで、どうなってんだか…。ぎゃふん。言い訳のしようもないっす。(汗)