Swimming!!
冬。
雪の降る日。
それでも部活はあるもんだ。
「さむいっつーの!!」
「うるさい」
横にいる剛ににらまれる。
「だったら水泳部やめろよ」
「や」
的確なツッコミに多少ムカツキを覚えつつ。
だって、水泳部やめちゃったら王子様と話せる機会減っちゃうじゃない。
「じゃぁ行くぞ」
冬なので、市営の屋内プールへ入場。
練習しなきゃ身体は鈍る。
けど、たとえ屋内でも冬にプールは寒い。
仕方なく着替えてプールサイドへ行くと、既に先客がいた。
「おー、やっと来たかぁ」
女子部顧問の坂本先生がベンチから叫ぶ。
「やっとって何ですか!」
女子部員の中では一番乗りじゃない。
「やっとだろ?お前は、練習量が足りてないから皆より30分早く来いって言ったはずだぞ」
「あれー?」
「今何分前か分かってるか?」
「15分前?」
応えると、坂本先生は大きなため息をついた。
ちゃんと早めに来てるんだからいいじゃん。
早いじゃん。
「わざわざ迎えに行ってやんなきゃ来ねぇとか何様だよ」
剛がびしょぬれで現れた。
「もうシャワー浴びたんだ?」
「俺はお前みたいにノロノロ着替えねーの」
ムカ。
何その言い方。
「夫婦漫才はいいから、ストレッチしてシャワー浴びてこい!」
「「夫婦じゃありません!!」」
剛とハモる。
最悪。
「あれ?まだ準備できてないの?」
男子部顧問の長野先生がいつのまにか背後に立っていた。
「いえ!大丈夫です!」
剛が突然シャキっとする。
「そう、なら、始めようか」
長野先生が微笑む。
「はい!」
この笑顔のファンが女子には多いんだけど……。
どこからどう見ても柔和そうな長野先生に、男子部員は誰一人逆らわない。
……どころか剛と同じように、信じられないくらい態度がマジメになる。
一体この先生は何者なのか……気になって仕方がなかったりする。
「おい、。長野に見とれてないで早くストレッチ」
坂本先生があきれ顔。
「はぁーい」
別に長野先生に見とれてないもん。
だって、私には王子様がいるから。
そのために水泳部にいるわけだし。
でも、王子様、まだ来てないなぁ。
「遅れてすみません!」
後ろを振り返ると、王子様!
「長野先生、新入部員連れてきました」
王子様の横に、もう一人見慣れない少年が立っていた。
「岡田、遅刻は……分かってるよね?」
顔は笑ってるけど、言葉が怖いよ、長野先生……。
「はい!分かってます!すみませんでした!」
なんて素直な王子様。
素敵だわ、素敵だわ。
「この人、えっと、転校生で。あの、前の学校では水泳やってなかったみたいなんですけど、すっげーアスリートだったんすよ!」
え?
色白で華奢なこの人が?
「うん、知ってるよ」
長野先生はあっさり言った。
王子様は必死に訴えてるのに。
「もし彼が水泳をしたいのなら、自分からここに来るはずだよね?僕には岡田が彼を引きずってココまで来たように見えるんだけど?」
確かに、王子様にがっしりと腕を握られた少年は、顔をそっぽに向けていた。
どう見ても、喜んでここに来た感じじゃないな……。
「だって、すっげーヤツなのにやらない理由はないじゃないですか!」
「岡田、それはお前が勝手に言ってるだけだ。本人のやる気がないのに泳いだってどうにもならない」
「でも……」
ああ、王子様がんばれ!
おぼれた私を救ってくれた時のように!
「キミは水泳部に入りたいの?」
長野先生が少年に尋ねる。
「別に……」
先生から目をそらした彼と目があった。
うわ。
なんか気まずい。
「あれ?もしかしてちゃん?」
へ?
「そ、そうですけど……」
何で私を知ってるの?
っていうか、誰!!
「俺だよ、俺!健!!」
けん?
ん?
「もしかして、健ちゃん!?」
「そう!!」
言われてみれば!
幼い頃近所に住んでいた健ちゃんだ!
「え?お前水泳部なの?」
「う、うん……」
不純な動機でだけど。
「先生、質問があります」
健ちゃんは、長野先生の方を向いて言った。
「練習は、今日みたいに女子と合同ですか?」
は?
「まぁ、そうだね。たまに時間入れ替えてやることはあるけど」
「あ、あの三宅くん?」
健ちゃんを連れてきた王子様も、きょとんとしている。
まぁ、そうだよね。
私も健ちゃんがよくわからない……。
不思議ちゃんではなかったと思うんだけど。
長い年月が人を変えた?
「水泳部、入ります」
「え?」
何で!?
「歓迎するよ」
長野先生は動じることなく受け入れているけれど。
私も、王子様も、呆気にとられちゃってますよ。
「ちゃん、よろしく」
どういうこと?
「俺、記憶力いいし、約束は守るから。たとえちゃんが忘れていてもね」
はい?
何を約束したの!?
覚えてないんだけど!
「な、な、な、何を約束したっけ?」
おそるおそる聞いてみるものの。
「秘密☆」
はぐらかされました。
「、話してないでシャワー行ってこい」
坂本先生が苦笑いしてる。
「はぁい、行ってきますぅ」
まぁ、この状況はね。
さっぱり理解できないよ。
シャワー室に入ると、プールの管理職員をしてるいのっちがいた。
「なにしてんの?」
いのっちは、にんまりわらっている。
「その笑い、気持ち悪いんだけど」
「いやぁ、健のやつやるなぁって思って」
そっか。
いのっちもご近所さんだから、健ちゃんを知ってるんだ。
「盗み聞きしないでよ」
「偶然だって。ホラ、あの端にあるシャワーが調子悪いの直しに来たんだって」
「あっそ。」
「俺、覚えてるぜ」
「何を?」
「約束」
「本当?」
「マジマシ。だって、お前ら口癖のように約束してたぜ」
うっそ。
全然覚えてないんだけど。
「教えて」
「聞いて後悔すんなよ?」
後悔する様な内容なの?
いや、ちびっこがそんな困る約束しないでしょ、多分。
「教えて」
「結婚するって公言してたぞ」
は?
「大きくなったら結婚するんだって。、健ちゃんじゃなきゃいやなのーって」
はぁ?
記憶にない。
「ま、ままごとでしょ?」
「さぁ?健はそう思ってないんじゃね?」
まさか。
私には王子様がいるのに!
まぁ、片思いだけど。
「がんばれ」
いのっちが無責任に笑う。
これから私、どうなっちゃうの!?
あとがき
弥子さんへのキリ番44000記念小説です。
なんかいのっち先生じゃないですが……。
とんでもなくお待たせしました。すみません。
もう一本も頑張って書くので、気長にお待ち頂けると嬉しいです。