reprise...



 それは、今ではもう、懐かしい思い出。




 今日は、の17歳の誕生日だっていうのに。
「別れよう」
 の言葉に驚いて、俺は固まってしまった。
 いや、本当は怖かったんだ。
 一番、聞きたくない言葉だったから。
「あのね、ヨシヒコ。私、他に好きな人ができたの」
 うん。
 知ってる。
「ごめんね。ごめんね。いけないことだって、分かってた。だけど、自分を止められなかった」
 の瞳からあふれる涙が、冷たい。
だけのせいじゃないよ」
 淋しい思いをさせていたのは俺。
「私、ずっと、ヨシヒコが好きだった。本当よ?」
「分かってる」
 だから、もう、悲しまないで。
 苦しまないで。
「あれ、疑ってたんだろ?」
 が俺から目をそらした。
 前に、じゃない女が、俺の彼女だって噂が流れた。
 俺は気にもしなかったけど、はそうじゃなかった。
 俺が、V6としてデビューして、突然会う時間が減って。
 が淋しく思っていることも知っていたのに、不安になる方が悪いって思ったんだ。
「今更だけどさ、あいつは、ただの友達だよ。恋人なんかじゃない。ただの友達。俺にとって、だけが特別なんだ。今も、昔も。信じて欲しい」
 本当に、今更…だよな。
「何で?何で今頃言うの?分かってたなら、どうしてっ」
「本当、何でだろう。お互い、正直になれなかったよね」
 思ったこと、にちゃんと伝えていたなら。
 もっと、正直になっていたら。
 俺たち、こんなことにはならなかったのかな?
「愛してる」
 思いがこみ上げてきて。
 言葉にならない。
 ただ、俺の中で、一番強い感情だけは、口にできた。
 初めてのキスは、遠い昔のことだけど。
 覚えてるよ。
 嬉しかったんだ。
 若すぎた思い出にはしたくない。
 大切な記憶なんだ。
 失えないんだ。
 だけど。
を愛してる」
 抱きしめることが精一杯で。
 別れたくない。
 分かってたけど。
 それでも。
 俺は、を抱きしめたまま。
 この手を離さなきゃいけないんだって、頭では分かってるけど。
「ごめんね、ヨシヒコ」
 この手を離さなきゃならない。
 何より大切なはずの、を。
 だけど、今日は。
 の17歳の誕生日だから。
 ゆっくりと、にキスをした。
 きっと、これが、最後のキス。
「さよなら」
 俺からの誕生日プレゼント。
 誰よりも大切だから。
 もう、を悲しませたくない。
 苦しめたくないんだ。
 だから、さよなら。
「ヨシヒコ?」
「行けよ、アイツのトコに。せっかくの誕生日なんだし、祝ってもらえ」
 なんて、やせ我慢。
 らしくねぇよな。
「待ってるんじゃないのか?」
 本当は、こんなこと言いたくない。
 誰にも渡したくはない。
「うん」
 うつむいたまま答えないで。
 決心が鈍るから。
「早く行ってやれ」
 そろそろ我慢の限界だから。
 ゆっくりと、は俺から離れた。
「…さよなら。ヨシヒコ」
「おぅ」
 が俺に背中を向けた。
 お別れだ。
 本当に?
 俺たち、これで終わっちまうのか?
「なんかあったら、いつでも呼んでくれ。飛んでいくから」
「うん」
「淋しいからとかでも、すぐにでも飛んでくからな!」
「うん」
 は、微かに笑ってくれた。
「じゃあ、ね」
「あぁ」
 小さく手を振って、俺に背を向けて。
 行かないで。
 行かないで。
 我慢してたものが、あふれ出す。
 嫉妬。
 後悔。
 様々な感情。
 それから、涙。
 永遠の別れじゃない。
 だけど、俺には、それと等しいくらいのことなんだ。
 もう、俺の愛してるは、俺のじゃない。
 涙のせいで、後ろ姿さえ、霞んで見えない。
 切ないよ。
 
 行かないで。
 ドアの音で、もう、ここにがいないんだと知らされる。
 終わりじゃないよね?
 俺たち、別れたけど。
 新しい始まりだよな?
 今は無理だけど、いつか。
 いつか、きっと、笑い合えるような。
 そんな未来があるよな?
 そんな未来が、今、ここから始まるんだって。
 そう信じていいよな?




 あれから10年経って。
「ヨシヒコ、おまたせ!」
「待ちくたびれたっつーの。何してたんだよ」
「いや、旦那が家に忘れ物しちゃっててさぁ。届けてきた」
「相変わらずだなぁ」
「そうなの。おっちょこちょいなのよね。もぅ」
「でも、そこも好きなんだろ?」
「まぁね」
「おー?ノロケやがって」
「もぅ!ヨシヒコ!からかわないでよ!!」
 再会してからのは、幸せそうに笑っている。