知らない



 知らない。
 俺は、何も知らない。
 キミがここにいる理由も。
 いつここへ来るのかも。
 何故俺の隣にいるのかも。
 どこへ帰っていくのかも。
 そして、キミが誰なのか。
 知らない。
 俺は、何も知らないんだ。

 俺が家に帰るとがいた。
「あ、帰ってきた」
 テレビを見ながらビールを飲んでいるが言う。
「いたんだ?」
 はいつも予告もなしにやってくる。
「ねぇ、お腹空いちゃった。何か食べたい」
 笑顔で俺に言う。
 俺はこの顔に弱い。
「ダメ。俺、仕事から帰ってきてんのよ?疲れてんの」
 事実、俺は今日朝からずっと仕事してて、もう、ヘロヘロ。
「食べたい」
 は俺のこと何てお構いなしに笑顔で言う。
 きっと、俺がこの笑顔に逆らえないことを知っててやってるんだ。
「嫌だ」
 抵抗。
 分かってるさ。
 これが無駄な抵抗だってことくらい。
 だけど、すんなりとOKするのも癪じゃないか。
「じゃぁ、カレーでいいよ」
 カレーでって…。
 それ、俺が昨日材料買って冷蔵庫に入れてたのから推測しただろ!?
 ったく、いっつも勝手に冷蔵庫開けるんだから。
 俺は返事なんてしないでキッチンに消えていく。
 結局、カレーを作ってやるわけだけど。
 冷蔵庫を開けて、材料を取り出す。
 …ん?
 昨日買っておいたプリンがない!?
!!」
「なぁに~?」
 けだるい返事が返ってくる。
「俺のプリン食っただろ!?」
 くっそう!
 ビールくらいは許せるさ。
 が来たときの為に多めに買って置いてあるし。
 だけど、コレは許せない!
 今日は仕事が多いから、自分に「お疲れ様」のご褒美のつもりで昨日買っておいたのに!!
「何?食べちゃダメだったの?」
 なんで、そんなにあっけらかんと言うかなぁ!?
「ダメに決まってるだろ!?俺はアレを食べるのを楽しみにしてたんだぞ!?」
「そんなの、知らないし?」
「俺はなぁ、今日は朝からずっと仕事で、辛いけど家に帰ればプリンが待っているんだって思いながら頑張って働いたんだぞ!?」
「だったら食べれば?」
「ないじゃん!!」
「コンビニに買いに行けばいいじゃん」
「じゃぁ買ってこいよ!!」
「うん。行ってらっしゃい」
 …は?
「俺が行くんかい!!」
「違うの?」
 笑顔で聞き返すなよ…。
「もう、いい」
 拗ねてやる。
 グレちゃる!!
 拗ねちゃる!!
 怒っちゃる!!
 なんて、なんて!!
 とか思いながら、俺、カレー作ってるし。
 ダメじゃん。
 やっぱには勝てないよ。(苦笑)

 カレーを作り終わって、テーブルの上に2つ並べた。
 と、俺の。
 今日はと一緒に飯。
 そう思うだけで少し幸せな気分。
 本当は、俺、仕事で弁当出たんだけど。
 と一緒に食べたいし。
 小腹も空いてきたし。
~!出来たよ~!」
 家の中の何処にいるのか分からないを呼ぶ。
 テレビに飽きたらしくて、気付いたらリビングにいなかった。
 まぁ、いつものことだから大して気にしてないけど。
「遅い~」
 ああ、やっぱりどっかにいたんだ。
 何処にいたのか知らないけど、ちゃっかり呼べばやってくる。
「何処にいたの?」
「んー?暇だから寝てた」
 確かに、寝起きって感じの格好をしてる。
 髪もボサボサになってるし。
「そっか」
「そうなの」
 言いながらイスに座る。
「食べよー」
「おう」
「いただきますv」
 満面の笑み。
 俺はこの顔が見たいが為にの専属シェフになっちゃってんだよなぁ。
「いただきます」
 俺も食う。
 うん。上出来。
「さすがよっちゃん。おいしいよ」
 親指を立ててが言う。
「さんきゅ」
 マジで嬉しい。
「そだ、忘れてた」
 何かを思い出したようにが言う。
「ん?どうした?」
「んー、今はカレー食べるから後で言う」
「ふーん」
 何だろう。
 の方から話って。
 珍しいな。

「ごちそうさまでしたvv」
 が幸せそうに笑う。
 俺はもう食い終わってたけど、が食べてる間ずっと向かい側に座ってた。
 だって、の顔が見てたかったんだもん。
「で?」
「は?何?」
 が訳分かんないって顔してる。
「さっき、何か話があるって言ってたじゃん」
「ああ!」
 何かを思い出したらしいは立ち上がった。
「ちょっと待っててね」
 そう言って部屋を出て行く。
 …何なんだ?
 まぁ、の行動はいつもよく分かんないけど。
 バタバタ廊下を走る音がする。
 そして、何かを持ったが帰ってきた。
 コンビニの袋?
「ご褒美」
 そう言うとはソレを俺に渡した。
 中を見てみると、プリンだった。
 俺が昨日買っておいたのと同じプリン。
「寝てたんじゃないの?」
「その前に退屈だからコンビニ行ってきた」
 何事もないようにが言う。
 俺は嬉しくてたまらない。
「ありがとうっ」
 もともとはが俺のを食ったのが悪いんだけど、そんなの関係ない。
 が俺の為にプリンを買ってきてくれたことがめちゃくちゃ嬉しい。
 だって、が俺の為に何かをしてくれることなんてそうそうないから。
「食べないの?」
「食べますっ」
 俺はプリンを食べる。
 とにかく、嬉しくて。
 プリンが超うまくて。
 もともとうまいんだけど、が買ってきてくれたから、もっとうまくて。
 もう、涙出ちゃいそうなくらい感動しちゃってるよ。
「幸せそうにたべるね~」
 何てが感心してるけど、がそうしてるって分からないのかな?
「だって、俺、幸せだもん」
 食べながら答える。
「よかったね」
「おう」
 この幸せはいつまで続くんだろう。

 はいつも勝手にやってくる。
 予告もない。
 本当に突然。
 帰ったらいる。
 置き手紙があることもある。
 勝手に俺の家にきて、冷蔵庫あさったりしてる。
 仕事の資料とかには絶対に触らないし、イノスタにも絶対入らない。
 合い鍵、気付いたら作ってた。
 俺が渡した覚えはない。
 今思えば、と知り合ったのも凄い偶然。
 たまたま公園のベンチで寝てたに俺が声をかけた。
 「こんな所で寝てたら危ねぇぞ?」って。
 それからがたまに遊びに来るようになって。
 いつの間にか当たり前のようにこの家にいて。
 毎日きたかと思えば2週間くらいこなかったり。
 そして、いつの間にか、そんなを好きになってる俺がいた。

「今日はどうすんの?」
 いつまでもリビングで雑誌を読んでいるにたずねる。
「泊まってく」
 当たり前のように答える。
 分かってる?
 俺、男だよ?
 我慢なんて、出来ないよ?
 少しずつに近づいて、後ろからゆっくりと抱きつく。
 その気持ちよさに目を閉じる。
 は涼しい顔で雑誌を読み続ける。
「ねぇ…」
 俺は、その先の言葉を続けることが出来なかった。
 は恋人じゃない。
 俺は愛してるけど、は俺のことどう思ってるのか分からない。
 だけど、一緒にいる。
 こうして、くっついている。
「…いいよ」
 少し考えてが返事をした。
 俺はに口づける。
 ゆっくり、深く。
 は雑誌を閉じて俺の思いに応えてくれる。
、愛してる」
 不意に漏れる言葉。
 だけど、は何も言ってくれない。
 キミは俺を見てくれているの?
 俺の思いは伝わっているの?
 俺は、何も分からない。
 キミがここにいる理由も。
 何故俺の隣にいるのかも。
 どこへ帰っていくのかも。
 そして、キミが誰なのか。
 って名前だって、本名じゃないのかもしれない。
 それでも、俺はを愛してる。
 今、確かに俺の腕の中にいるキミだけが真実なんだ。
 キミが誰でもいい。
 側にいて欲しい。
 愛してる。
 ずっと、一緒にいたい。
 俺は、キミのことを知らない。
 でも、キミから何も言わないのなら、俺は何も聞かない。
 この関係を壊したくはないから。
 知らない。
 俺は、何も知らない。
 このままキミに溺れていたい。



あとがき
なんなんでしょうね。始めコレを思いついたときはまーくんネタだったんですよ。
正体不明なのがまーくんで、彼女がソレを悩んでるみたいな。
なのに、何故か立場逆転で快くんです。なんでだろう?
もしかしたら、まーくんの方も書くかもしれないです。