某家電量販店にて



 ここで働き初めて半年。
 何にもわからないくせに電気屋の店員。
 私の仕事はレジ打ちだから特に支障ない。
 まぁ、たまに困ることもあるけど。
 いつも適当にやってれば、それなりの給料が入ってくるから、この仕事を続けてる。
 代わり映えのない毎日。
 たまには刺激が欲しいと思ったりもする。
 つまらなく感じたりするけど、きっと平凡が一番幸せなんだって自分にいいきかせてる。
 不満なんてない。
 何かが物足りないだけ。
 大したことじゃない。
「あのう」
 ぼーっとしてた私にお兄さんが声をかけてきた。
 お客さんだ。
「はい。何かお探しでしょうか?」
 あ、この人、ときどきやってくる常連さんだ。
 いつもバラバラな時間に来るのよね。
 キャップを深く被ってるの。
 帽子が好きなのかな?
 フリーターかとはじめは思ったけど、それにしては高額の商品を一括で買うのよね。
 一体何してる人なんだろ?
「コンポ、修理に出したいんですけど」
「現物は?」
 …手ブラなんだけど、この人。
「ごめん、重いからまだ車の中なんだよね。荷台か何か貸してもらえないかな?」
「お手伝いします」
「え?いいよ。俺一人で平気だからさ。女の子に手伝わせるなんてできないよ」
 さらりと笑顔で言ったよ、この人。
「では、お車まで荷台をお持ちいたしますので」
「ありがとう」
 何この人。
 フェミニスト?
 思わず惚れちゃいそうなんだけど。
 でも、どこかで見たことある気がするんだよね。
 雰囲気とか、なんか知ってる気がするけど思い出せない。
 でもまぁ、もし知り合いなら向こうが声かけてくれるだろうし、フェミニストの知り合いなんて心当たりないし。
 気のせいかな。
「あ、この車」
 そう言って彼が指した車の中には犬が見えた。
「…かわいい」
 思わず言葉を漏らしてしまった。
「でしょ?」
 得意気に彼が言う。
「ネルって言うんだ」
「へぇ~」
 私はネルに釘付け。
 彼は車の中からコンポを降ろし、荷台に載せていく。
 手伝うつもりでいたんだけど、ネルから目が離せない。
「犬、好き?」
「はい!」
 見ると、既に彼はコンポを荷台に置き終えていた。
「あ、すみません」
「何で謝るの?言ったでしょ。女の子に手伝わせるなんて出来ないって」
 やっぱりフェミニスト?
 荷車の取っ手を持つ。
「いいよ。俺がやるって」
「いえ、仕事ですから」
 客に荷台を押されたら、私、店内に戻れないわよ。
「そっか。じゃぁ、お願いします」
 そう言って彼は笑った。
 あ!
「えぇ!?」
 思わず叫んでしまった。
「どうしたの?」
 どうしたの?じゃないわよ。
 この人、知ってる!
 知ってるわよ!
 っていうか、逆に何で今まで気づかなかったの、私!?
さん?」
 え?何で私の名前!?
「は、はいっ!?」
「突然止まっちゃうんだもん。どうかした?」
「い、いえ」
 私の名前なんて、名札つけてるんだから分かって当たり前じゃない。
 例え相手が芸能人でも、お客様には変わりないのよね。
 しっかりしなくちゃ。
「もしかして、疲れてるんじゃないの?」
「そんなことないですよ」
 笑顔で答える。
「忙しいんじゃないの?俺が来るとき、いつもいるでしょ?」
 え?
 私のこと、覚えてるの?
「井ノ原さんの方が忙しいんじゃないですか?」
 あ。
 言っちゃった。
「あれ?やっぱ気付いてた?」
 …いえ、今、付きました。
「前からね、気になってたんだよ」
「え?」
さん、よく疲れた顔してることあるから。この仕事大変なのかなって」
  私、そんな顔してるの?
「俺、さんの笑顔見てみたいなーって思うようになってさ」
「は!?」
 何、恥ずかしいこと言ってるの?
「仕事中で悪いんだけど、こんなチャンス、二度と無いと思うから、言うね」
 何を?
「俺、さんのこと、好きです。つき合ってください」
 ……。
「へ?」
 何?
 今、何か聞こえた?
「いや、突然だよね。ゴメン。あの、取り敢えず、友達からでもいいんだけど、さんのこと、知りたいんだ」
 ここにいるのは、私と彼だけよね?
 この人、アイドルよね?
 V6の井ノ原快彦だよね?
「やっぱ、ダメ?」
「いや、ダメとかじゃなくて…」
 訳が分からないんですけど…。
 だって。
 何で?
 分かんないよ。
「俺の携帯の番号とアドレス、教えるから。今じゃなくていいから。返事、頂戴?」
 小さな紙が、手渡されて。
「仕事中だもんね。今はダメだよね、やっぱ」
 笑顔で彼は荷台を押して店内に向かい始める。
 私は動けなくて。
 その場に立ちつくしていた。
 前から彼の存在が気になってたのは事実。
 だけど、恋とかじゃないと思う。
 芸能人である人と知り合いになってみたいっていう好奇心がある。
 だけど、それって、失礼じゃない?
 彼は、私にそんなの求めてない。
 求めてるはずがない。
 友達になら、なれるのかな?
 テレビでは、よく見る。
 彼のこと、結構知ってる。
 だけど、それって。
 本当の彼を知ってるわけじゃないから。
 名前しか知らない人だから。
 まだ、どうなるかなんて分からない。
 彼のこと、好きになるかもしれない。
 嫌いになるかもしれない。
 それは、分からない。
 彼ともっと話をしたりしないと分からない。
 友達になら、なれるのかな?
 友達になら。
 彼の車を見る。
 中に、ネルがいる。
 私を見てる。
 ネルは、とても澄んだ瞳をしていた。
 ネルを見て、飼い主がとてもいい人なんだって分かった。
 そう、感じた。
 友達になら、なれるのかな?
さん?」
 振り向くと、彼がいた。
 コンポは別の店員に預けてきたんだろう。
「井ノ原さん」
 笑顔で、私を見てくれているこの人が、悪い人だなんて欠片も思わない。
「友達でいいなら、付き合ってみませんか?」
 勇気がいった。
 告白してるような錯覚。
 告白されたのは、私なのに。
「ホント!?」
 本当に嬉しそうな表情の彼。
「あの、私、仕事に戻らないと…」
「あ、そうだよね」
「じゃぁ」
 一礼して、彼から離れる。
「ねぇ!さんの連絡先は??」
 後ろから慌てた声が聞こえた。
 思わず、笑ってしまった。
 そうだよね。
 彼は、私のこと、ココで働いてるっていう店員だってコト意外知らないんだもんね。
「仕事が終わったらメールします!」
 彼のくれたメモを振りながら言う。
「分かった!待ってるね!」

 何だか、不思議な気分。
 あり得ない現実。
 突然破られた日常。
 だけど、これは嬉しい誤算かもしれない。
 新しい友達。
 もしかしたら、恋人になるかもしれない人。
 世界が、変わった気がする。
 きっと、これからは。
 素敵な日常が待ってる。



あとがき
イノッチ、よく家電量販店を利用するみたいなので書いてみました。
意味不明ですね。どうしよう、コレ。どうにもならないけど。
私はある家電量販店でバイトしていますが、決してレジ打ちが暇でないことを保証します。
私はレジ打ちの人を眺めている暇な人です。(え